日本からすすんで相手の土俵に
ちょっと記憶にないぐらい酷い内容の試合だった。一方で、山口蛍のアディショナルタイムのゴールによる劇的な勝利はチームの士気を一気に押し上げる可能性がある。
「選手たちははじめて叫んでいた。勇気の勝利であり、ときにはこうした勝利が必要だ。強豪国もいつも美しく勝っているわけではない」(ヴァイッド・ハリルホジッチ監督)
日本の選手はよく戦った。ただ、よくプレーしたわけではない。
ロングボールから1対1の戦いに持ち込もうとするイラクの土俵に引きずり込まれた。いや、むしろ日本からすすんで相手の土俵に乗ってしまった。どちらもロングパスを蹴り合い、セカンドボールを奪い合う。こうなると選手の適正な距離感は壊れる。そうなって得をするのはイラクである。陣形が間延びした状態なら、どちらにも攻め込むチャンスが出てくるからだ。
これまでの日本は、ボールをキープして相手を下がらせていた。奪われても素早くプレッシャーをかけ、相手が苦し紛れに蹴り出したボールを回収し、ほとんどハーフウェイラインを越えさせない戦い方ができた。攻めあぐねることはあっても、相手の攻撃に何度もピンチに陥るようなことは少なかった。ところが、イラク戦では相手と同じようにダイレクト・プレーを多用した結果、簡単にボールを失っては自陣まで攻め返された。
縦に速い攻撃とデュエル。ハリルホジッチ監督が就任以来強調してきたことだ。ただ、それは日本に足りないからそう言っているのだと思っていた。それなしにワールドカップでは戦えないぞと。今でもそうだと信じたいが、イラク戦を見ると、そうではないのかもしれないという疑念さえわく。
縦に速い攻撃とデュエルは日本の弱点であって長所ではない。にもかかわらず、あろうことかそれを前面に押し出して勝とうとしていた。わざわざ不得手なやり方を選択したのだ。なぜ、こんな罰ゲームのような戦い方をしたのか。イーブンの状況ならともかく、1点リードした後もそれは変わらなかった。