マルティノスが語る意外なプレーの極意
最後に、マルティノスにプレーへのこだわりを聞いてみた。当然ドリブルについて語ってくれるのかと思いきや、予想外の答えが返ってきた。それは「相手をよく見ること」だった。ごく当たり前のことに思えるかもしれない。しかし、この動作には足でボールを扱うだけでないサッカーの奥深さがあらわれている。
「前を向く、そして相手が何をしてくるかよく見て、自分がどう動くか決める。今日(川崎F戦)で言えば、自分が中に入ろうとした時に相手が同じ方向に動いてきたので、今度は縦に抜こうとした。そうしたら相手が『抜かれてしまうかも』と思って自分を抑えて、イエローカードをもらっていた。あそこで何もしてこなかったら自分は簡単に抜けただろうね。そういう様々な駆け引きを、相手の動きを見ながらやろうと心がけている。
もちろん1人を抜いた先にはまた相手がいて、僕がドリブルで抜いてくると思っているはず。でも僕はそこでパスを出してコンビネーションで抜けていく。周りの状況をよく見ながら駆け引きするんだ」
G大阪とのルヴァン杯準決勝2試合では左サイドを見ても頼りにしていた齋藤はいない。決勝の舞台に立つためには“ハマのメッシ”の力を借りられないのだから、マルティノスが持てる力のすべてを発揮し、チームを勝利に導かねばならない。
それでも幾多の壁を持ち前の観察力と柔軟な変化で乗り越えてきた“考えるドリブラー”は何かを起こしてくれるような気がしてならない。リーグタイトルの獲得が困難になった今、残されたカップ戦優勝の行方はマルティノスのプレーにかかっている。その足でチームを勝利に導いてからが真の覚醒だ。
(取材・文:舩木渉)
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