ノイアーは次世代スイーパーキーパーの代表
GKが手で処理するかどうかにかかわらず、リードしているチームがただ時間を費やすためにバックパスすることは、恥知らずとまでは言わなくても、観客を楽しませるプレーとは言えないだろう。一方で、ワールドカップや欧州選手権を見る限り、躍動感のある攻撃につながるようバックパスを使う戦術を取り入れているチームは多い。ただし、足元の技術が確かで、戦術眼(クライフの言うヴィジョン)を持ったGKの存在がポイントになる。
2014年ブラジルワールドカップはGKの大会と言われた。優勝したドイツ代表のGKマヌエル・ノイアーは、7試合を通して4失点しか許さず、86.4%という驚異のセーブ率を誇った。
それだけでない。高い位置にディフェンスラインを設定するドイツ代表のDFの背後をついてきた相手FWが、ペナルティエリアから飛び出したノイアーのタックルを受けてボールをクリアされるシーンに敵味方を問わず観客からはどよめきが起こった。またスーパーセーブ直後に、ノイアーはスローやキックで攻撃を仕掛け、味方のカウンターを演出した。そしてノイアーへのバックパスは、攻撃の始まりであることが明らかであった。
クライフが求めた「グローブをつけたフィールドプレーヤー」というGKの理想像を、ノイアーが体現した、と言えるのではないか。少なくともノイアーは次世代スイーパーキーパーの代表者であることは間違いない。
バックパス・ルール制定から14年がたった今年、Jリーグ各チームはバックパスをチーム戦術として有効に組み入れているだろうか? 近い将来、日本でも次世代GKが活躍する試合をぜひ観てみたいものだ。
(文:実川元子)
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