昔も今も嫌われる守備のためのバックパス
だが一方で、GKの役割はほとんど変わっていない、という意見もある。1974年西ドイツワールドカップと2014年ブラジルワールドカップでのGKのプレーを比較すると、バックパスを足元で受けるか、キャッチして味方に手で渡すかの違いだけで、そのほかはほとんど変わっていなかった、というデータがあるそうだ。
GKの仕事はあくまでも敵にゴールを割らさないことであり、ポジショニングもフィードもセーブを第一に考えるべきだ、ということか。
ところで、バックパスと判定されるのは膝を含まない足からのパスだけだ。膝より上の太もも、腰、胸、ヘディングで戻したボールをGKが手で受けるのは許されている。
だが足元のボールをフリックして浮かせ、膝、胸やヘディングでGKに戻すのは「審判の目をあざむく反スポーツマン的行為」とされて反則をとられる(「フットボール・バイブル」より)。そこから透けて見えるのは、守備目的のGKへのバックパスをよしとしないサッカー観ではないか。
英国紙ザ・ガーディアンは「バックパスの思い出」と題する記事で、バックパス・ルールが導入される以前に、サッカー界はバックパスをどう見ていたかを紹介している。
たとえば1988年欧州カップ準々決勝でFCディナモ・キエフと対戦したレンジャースFCの「恥知らずなバックパス」の記憶が取り上げられている。アウェイで0-1で負けたレンジャースは、ホームで奮起して2-0とリードした。アウェイゴールを狙って果敢に攻めてくるディナモ・キエフに防戦一方となったとき、プレーイング・マネージャー(選手兼監督)のグレアム・スーネスは決然としてチームに指示を出した。「バックパスで時間を稼げ」と。
ホームのレンジャース・サポたちは、GKクリス・ウッズがバックパスを受けるたびに「まるでゴールしたかのように」(コメンテーターの言葉)喝采を送ったそうだ。残り30秒となったとき、味方からのパスを受けたスーネスは顔を上げ、注意深くロングボールを蹴った。
ただし味方陣内に向けて。「ボールが送られたその先にいたのは、クリス・ウッズだった。まったくもって恥知らずきわまりない」とザ・ガーディアンの記事は締めくくっている。バックパス・ルールが導入される以前も、バックパスは「恥知らず」と見なされていた。