アラダイス退任に追い込んだ“おとり取材”
「してやられた」。
英国時間の9月27日夜にイングランド代表監督退任を余儀なくされたサム・アラダイスは、ボルトンにある自宅前に集まった報道陣を前に語った。自ら「監督としての夢」と評した代表での任期は僅か67日間。采配は2018年W杯予選1試合でしか振るえず。翌日の報道では、「悔やんでも悔やみ切れない様子だった」とする知人のコメントも紹介された。それでも、アラダイスに同情を寄せる気にはなれない。
同情の余地がないとは言わない。ごく一部ではあるが、メディアでもFA(イングランドサッカー協会)はアラダイスを続投させるべきだったとの意見はある。
何に「やられた」のかと言えば、『テレグラフ』紙のおとり取材。同紙が昨年から行っていたという国内サッカー界汚職調査の一環として、記者が極東で代理人ビジネス参入を狙う実業家に扮して接触した。本稿執筆時点(編注:現地時間28日)で確認可能な情報の範囲で言えば、映像証拠つきの言動にも監督としての契約違反は見受けられない。
選手保有権の第三者取得を禁ずるFAのスタンスを「馬鹿げている」とする発言は、南米のように他国では認められているケースがあることを考えれば、あり得ない意見ではない。「かいくぐる方法はある」と認識している現場の人間は他にもいるだろう。
40万ポンド(約5600万円)でのアドバイザー契約は「FAの承認が必要になる」と伝えている。「ウォイ」と呼んでロイ・ホジソン前監督の舌のもつれるような喋り方を茶化す人物は他にもいる。『サン』紙などは見出しに使ったこともあるほどだ。
EURO2016でのホジソン采配を「決断力不足」と評した人物もアラダイスが初めてではない。FA総裁であるウィリアム王子の観戦率、新ウェンブリー建設の意義、代表前助監督ガリー・ネビルの存在、代表選手の精神面などに関する否定的な見方に関しても同じことが言える。