ときに格上の相手を倒す。しかも圧倒して勝つこともできる
ディフェンスラインは下げたままではいられない。誰かが前に出て、バイタルエリアでボールを持った日本のマイスターにプレッシャーをかけなければならない。
それが1人だけなら、ラインとの間にギャップができる。ラインごと上げてくれば、逆サイドの後方からラインと入れ替わりに飛び出せば裏をつける。もし、その選手を相手の1人がマークすれば、そこでまたギャップが生まれる。
そのどれかの弱点を的確につけばいいし、それ以外の正解を叩き出せば「ブラボー!」だった。アイデアと運動量、才能と献身の組み合わせで相乗効果を狙う、オシム監督が用意した仕掛けである。
リスクを前提に、それをできるだけコントロールしながら一歩踏み出す。この戦い方は、ときに格上の相手を倒す。しかも圧倒して勝つこともできる。今季のシーズン前、スペインのスーペルコパでセビージャはバルセロナ相手に途中までポゼッションで上回った。バルサ相手にボール支配で上回るなど、まず起こらない現象である。それができるのは、ゲームの設定を変えているからだ。
オシムが目指したサッカーは「日本化」という枠を超えていて、相当に野心的なものだったと思う。強豪に囲まれながら一泡吹かそうと狙い続けた旧ユーゴの伝統を踏まえ、その中でも最もロマンティックなスタイルだったといえる。
(文:西部謙司)
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