「考えて走る」の真意
敵陣内でプレッシングを行うにもマンツーマンは適している。ただし、1人がマークを外されてしまうと玉突き的にズレてしまう弱点があり、何より守備の重点地域を確定できず守備範囲が広すぎる。多大な運動量が要求され、それ以上にリスク管理の速さと的確さが求められた。
例えば、マンマークと言ってもリベロを1人余らせているから、1対1のマッチアップを10個作れるわけではない。相手の誰か1人はフリーになる。フリーにしていい相手は誰か、あるいは同数で守るべきかどうかを的確に判断しなければならない。
抜かれてしまったときのカバーをどうするか、プレスを外されたときは、マークを引き連れてスペースを空けようとする相手にどう対処するか……オシム監督は「走る」をテーマに掲げていたが、実は走る以上に「判断力」が重要だった。
オシムのサッカーは「考えて走るサッカー」と形容されていたが、そもそもサッカー選手が走るときは何かの意図がなければ走れない。無目的に走る選手はいないので、「考える」と「走る」はどうしたってセットなのだ。
しかし、間違えて走る選手もいる。チームの中心だった遠藤保仁は、「オシムさんのときの代表が一番やりにくかった」と話している。これは初期段階で、やみくもに走る選手が多かったからだろう。
オシム監督の練習は「多色ビブス」が有名になったように、常に判断力を問うもので占められていた。「考える」は「走る」と並んでこの型のサッカーに必須であり、的確な判断によるリスク管理は重要なカギだった。
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