戦術とは別次元にある「湘南スタイル」の定義
湘南ベルマーレの戦いぶりを介して、日本サッカー界のなかでかなり浸透した感のある「湘南スタイル」という言葉の定義を、あらためて噛みしめてみたい。
起源はベルマーレがJ2を戦っていた2012シーズン。ある試合後の公式会見で、このシーズンから指揮を執っていた曹貴裁監督が「我々の湘南スタイル」という言葉を残したこととされている。
攻守を素早く切り替える、攻守両面で常に数的優位を作る、縦パスが占める割合を40パーセント前後にする――といった戦術的な特徴はあるが、真の定義はこれらとはまったく別の次元にある。
昨年2月に発表した初めての著書『指揮官の流儀 直球リーダー論』(角川学芸出版刊)の冒頭部分で、曹監督は「湘南スタイル」の定義をこう著している。
「スタンドとピッチが同じ気持ちを共有しながら、スタジアム全体に『これが湘南のサッカーなんだ』と胸を張れる空間を作り出すこと」
代名詞としてよく結びつけられるカウンターは、ファンやサポーターとベルマーレというチームが、同じ価値観のもとで心を躍らすことのできる代表的なプレーのひとつにすぎない。
2度目のJ1を戦っていた昨シーズンの途中には、トップカテゴリーで確固たる結果を残してきたチームに苦杯をなめるたびに、指揮官はこんな言葉を残してはチームの原点を確認している。
「90分間を通して足を止めない。両方のゴール前で体を張る。1回でボールを奪えなかったら2回、3回と何度でもいく。1回で相手を崩せなかったら2人、3人と人数をかけて攻める」
あるいは、対戦相手や状況によっては引いて守ることも必要なのでは、と指摘されたときには未来を見すえながら、覚悟を込めた毅然とした表情でこう持論を唱えたこともある。
「『絶対』というものがないと勝負することはできない。次の試合へ向けて違ったことをするようでは、チームに『絶対』は残らない。僕は『絶対』というものを譲りたくないし、選手たちに『絶対』を実践させたうえで勝たせてあげたいし、勝ってもらいたい」