脳裏にあった原口元気の残像
DF森脇良太へ下げられたボールはMF武藤雄樹、FWズラタンとペナルティーエリアに沿って美しくつながり、すでにマークする相手がずれていたサガン守備陣をさらに混乱に陥れる。
仕上げ役は左ワイドの宇賀神友弥。ズラタンが落としたパスに、約20メートルの距離から丁寧に右足を合わせる。狙いすました一撃は、日本代表GK林彰洋が守るゴールの左隅へと吸い込まれていった。
「(柏木)陽介君ももうちょっと中に出すというか、自分としてペナルティーエリアの中でキーパーと1対1になるくらいのイメージだったんですけど、ちょっと外に流れて。
ただ、チーム全体としても切り替えの速さというものはすごく意識している部分なので、上手く体を入れ替えられたと思います。そこから上手くつないで、またつないで、シュートも見事でしたよね。なので、あれは別に(自分がゴールに)関わったという感じはしないんですけど」
ベンチ入りした18人のなかで最年少の21歳は謙遜することしきりだったが、「攻」から「守」、そして「攻」と目まぐるしく自らの役割を変えた数秒間は巧さと強さ、そして泥臭さが完璧なハーモニーを奏でていた。
結果として関根の頑張りが福田と吉田の2人を翻弄し、森脇と武藤、そしてズラタンが相手のプレッシャーをほとんど受けることなくパスをつなげる数的優位な状況を生み出した。
「いやぁ、そう言ってくれるだけで、ありがたいことです」
今度ははにかみ笑いを浮かべた関根の脳裏には、いまもなお強烈な残像が刻まれている。テレビ越しに日本代表を応援した先のワールドカップ・アジア最終予選。ピッチの上では、憧れの存在が躍動していた。
「ホント、日本代表のなかで一番戦っていたと思います」
初戦でUAE(アラブ首長国)代表にまさかの苦杯をなめて迎えた、6日のタイ代表との第2戦。先発に抜擢されたFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)の一挙手一投足に、関根は心を震わせていた。
豪快なヘディングで均衡を破った、前半18分の先制弾だけではない。サイドからの仕掛け。相手ボールになったときの切り替えの速さ。負けてたまるか、という闘志。すべての面で原口は異彩を放っていた。
「攻撃だけではなく、守備という部分を誰よりも意識してプレーしていたと思いますし、実際にそれが(テレビ越しに)伝わってきた。ボールをもったらグイグイいくところはそのままだったし、特に右サイドでボールをもったときのプレーの幅というものが、すごく広がっていると感じました。守備でもあれだけ頑張って走れるのはすごいこと。ああいうプレーをすればチームとしても助かるはずなので、自分も見習っていきたいと思いました」