今シーズンの展望
アーセン・ヴェンゲル監督にとっては文字通り「ラストチャンス」の1年となる。今季限りで満了する契約を延長するには、プレミアリーグのタイトルを獲得するほかない。14年ぶりの戴冠を実現すればフロントもファンも満場一致で続投を支持するだろう。しかし、そのミッションに失敗した先に見える未来は暗い。
リーグで唯一20年もの長期政権を築くヴェンゲル監督は、自身の立場が安泰ではないことをようやく悟ったようだ。昨夏の補強はGKのペトル・チェフのみで驚きをもたらしたが、今夏は倹約家らしからぬ積極投資で意中の選手を買い漁った。
もっとも、トマシュ・ロシツキやマテュー・フラミニ、ミケル・アルテタといった近年のアーセナルの中盤を支えた選手たちが一斉にクラブを去り、シーズン開幕前に守備の要ペア・メルテザッカーの長期離脱が確定するなどの事情があったこともあるが。
それでも戦力収支が確実にプラスになったとは言い切れない。グラニト・ジャカをはじめとした新戦力のほとんどはプレミアリーグ未経験で、順応にどれほどの時間を要するかも不透明だ。その一方、浅野拓磨やロブ・ホールディングのような将来性への投資も目立った。
また、新たな得点源として期待されるルーカス・ペレスにも不安が残る。27歳のスペイン人FWはこれまでウクライナやギリシャなど陽の当たらない場所を渡り歩いてきた苦労人で、欧州トップクラスでの実績に乏しい。母国スペインの1部リーグで実績を残したのは昨季の1年間だけで、それまでは特に目立たない“普通”の選手だった。
昨季の大爆発が偶然だと断じることはできないが、少しリズムを崩して“普通”に戻ってしまうかもしれない、一発屋の可能性を秘めている。結局オリヴィエ・ジルーに頼るとなれば大問題だ。
今季のアーセナルにはプレミアリーグで上位争いをする実力があることに疑いはないものの、ビッグクラブが軒並み低調だった昨季とは状況が違う。マンチェスター勢の前評判が高く、チェルシーも復活の兆しを見せる。宿敵トッテナムも充実のスカッドで睨みを利かせている。
そんな中、ヴェンゲル・ガナーズはどこまで優勝争いに食らいつけるか。例年のごとく負傷者に悩まされれば、タイトルどころではなくなってしまう。チャンピオンズリーグの連続出場記録も危ういかもしれない。今季はまさしく崖っぷちからのスタートだ。