欠如するフロントからヴェンゲル監督への進言
ヴェンゲルの在り方には、年々「意固地」や「傲慢」といった批判の声が増えているが、強い信念を監督としての欠点だと非難することはできない。欠けているとすればフロント陣による進言だろう。
かつてのデイビッド・デイン副会長のように、即戦力購入に二の足を踏むヴェンゲルの背中を押せる権力と勇気を持つ役員がいれば、3年前にルイス・スアレスとの交渉権獲得額ギリギリを狙った「40,000,001ポンド」の提示額でリバプール(当時)の反感を買い、超一流ゴールゲッター獲得の可能性を自滅させるようなミスは犯さなかったに違いない。今年にしても、PSGからのカバーニ獲得は金額次第で実現可能と思われた。
実際のフロントはというと、筆頭株主のスタン・クロエンケは、チームの白星よりクラブ口座のゼロの数に目がいく投資家オーナーの典型のよう。日々の運営を任されているガジディスも、役員内最高給取りとしての我が身可愛さから、敢えて監督に巨額の出費を勧めようとしなくても不思議ではない。
結果として今夏も大物CF獲得交渉は進まず、市場閉幕が迫れば移籍金額は更に上がり、より一層にヴェンゲルの信念が強まる。「スアレスと共通点がある」というサンチェスのCF起用説明は、「だから買わない」と言っているかのようでもある。
今夏もショーウィンドーを覗くだけに終わろうとしているアーセナルは、今季も念願のプレミア王座復帰は叶わずに終わるように思えてならない。
(取材・文:山中忍【ロンドン】)
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