大型補強にブレーキを掛けるヴェンゲル監督の信念とは
大物の中でも値の張るストライカーをアーセナルが「買えない」のではなく、アーセン・ヴェンゲル監督が「買わない」からだろう。近代アーセナルの父とも言うべき名将の存在が、クラブにとっては両刃の剣となっているのだ。
イバン・ガジディスCEOは、プレシーズン中に「独立採算の観点から、移籍市場でリスクを冒して他クラブと張り合うことはできない」と『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っているが、見返りが計算できるワールドクラスを買い入れる金銭的体力はある。
黒字経営の積み重ねで、クラブの口座には億単位の英ポンドが蓄えられている。今春に監査報告がなされた一昨季の数字を見ても、アーセナルの収益はプレミア3位の3億4500万ポンド(約520億円)。大物獲得は給与出費もかさむが、総収益に閉める割合はリーグ4位の56%程度で、68%でトップのチェルシーに比べればはるかに健全だ。メスト・エジルと並ぶ年俸15億円前後のチーム最高給取りが1人ぐらい増えても問題はないだろう。
だが、指揮官の信念が購入にブレーキを掛ける。ヴェンゲルは、ワールドクラスを買うよりも育てることを信条とするタイプ。配下の選手を信じようとする意志の力は、66歳の今でもプレミア随一のレベルにある。
傍目には、本来なら正1トップのオリヴィエ・ジルーでさえ、難しいシュートを決める一方で簡単なチャンスを逃しすぎるように映る。セオ・ウォルコットは、オフ・ザ・ボールでの動きと左足のシュート力に欠ける。
それでも指揮官は、まだこの両名の域にさえ達していないヤヤ・サノゴやチュバ・アクポムにも期待を掛け続けている。同時に、「適性価格での戦力購入は監督としての責任の1つだ」とまで言う価値観の持ち主でもある。
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