ガラス細工の守備戦術
ヨーロッパの試行錯誤を経た戦術が大きな石を積み上げたものとすると、日本はまるでガラス細工だった。美しく精巧で整然としているが、実は意外と脆い。一度はフランスに砕かれ、何度かはヒビを入れられた。しかし、材料から変えていたら到底間に合わない。秋田豊と中山雅史、2人の実力者が大会前に急遽呼び戻されたが、それも「日本人の心」が必要という判断で、彼らを再び主力に据えようという意図ではなかった。
何とか形にはしたものの、日本の戦術には脆さが内在していた。選手たちもその危うさに気づいていたが、理詰めの組織戦術からの逸脱はチームからの離脱に等しい。戦績も良く、大きな修正はないままワールドカップ本番を迎えた。
緒戦のベルギー戦は2-2、しかし浅いラインの裏を狙われていた。それまで何度か抱いていた危惧が現実としてつきつけられた。次のロシア戦、選手たちの判断でラインを下げて勝利する。別のグループでアルゼンチンに勝ったイングランドの守備をヒントにしたそうだが、遅れていた数年分を一気に取り戻したわけだ。
といっても、いわば付け焼き刃であって、ラインを下げることで発生する新たな問題までは考えていない。ラインを下げれば自陣でミスが起こりやすくなる、深い位置からの攻撃も難しくなる。決勝トーナメント1回戦のトルコ戦では、自陣のミスからCKを与えて失点。トルコの堅陣を崩せないままベスト16で敗退した。
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