アマチュア条項削除後のFIFAとIOCの駆け引き
1974年にアマチュア条項はオリンピック憲章から削除された。ところがこれがまたFIFAとIOCとの対立の火種となる。IOCとしては、アマチュア条項がなくなったのだから、各国にA代表をオリンピックに送り込んでもらって集客力を高めたい。FIFAはワールドカップを世界最高峰のサッカー国際大会と位置づけて差別化をはかりたいから、A代表をオリンピックに出してもらいたくない。
妥協点として、1984年ロサンゼルス大会では、欧州と南米のオリンピック出場国はワールドカップに出場経験のない選手で組んだチームを送り込むことになった。この大会の優勝国は9大会ぶりに西側国であるフランスで、準優勝はブラジルだった。
そして1992年バルセロナ大会からは、オリンピックは23歳以下の選手で構成するチームが出場する、というところでFIFAとIOCは妥協した。FIFAにすれば、オリンピックをU-17、U-20ワールドカップと並ぶ年代別国際大会の一つと位置づけられて名目が立つ。
IOCにとっては、世界最大の競技人口を抱える人気スポーツを種目に残せる、という意味でぎりぎりの妥協点だった。だがバルセロナ大会で集客が伸びなかったことに不満を持ったIOCからの要請により、1996年アトランタ大会からはオーバーエイジの選手を3人加えてもいい、というところまでFIFAは譲歩して現在にいたっている。
こうやって振り返れば「アマチュアリズム」に端を発したFIFAとIOCの対立が、現在の欧州サッカークラブのオリンピック軽視につながっている、とわかる。アマチュア条項が削除されてからのオリンピック・サッカーは、「欧州のプロサッカークラブにスカウトされることを期待する選手が出場する大会」という色合いが強くなっている。
出場選手たちの顔ぶれは、集客を期待される若手(もしくはオーバーエイジ)のスター選手以外は、A代表になるには実力も経験も不足しているが、活躍すれば欧州移籍も夢ではないレベルだ。もしかするとオリンピックにおけるサッカーは、前世紀とは別の意味で「アマチュアの大会」になっているのではないか。
(文:実川元子)
【了】