セリエBで見られる特別な場所
コロッセオを背にしてそう熱く語るウーゴは、ペレからクライフ、ジーコとプラティニからマラドーナ、デル・ピエーロからバッジョ、そして今日の超一流たちへとつながる歴史を実際に生きながら語り続け、イタリアが奇跡のW杯制覇を遂げた82年大会も伝えてきた経験を持つ一方で、「でもね、むしろそうした華やかな舞台よりも大切にしてきた場所があるんだよ」とも言う。
その場所がどこなのかを問うと、彼はおもむろに1人の選手の名をノートに記しながら、こう語り始めた。
「アンドレア・ルーチという中盤の選手がいるのは知ってるよな? そう、今はセリエBのリボルノで主将を務めている、今年30になる“普通の選手”なんだが、このルーチという選手が一体どんな思いを心に秘めて毎週末の試合に臨んでいるか。
そしてその彼をチームメイトが、リボルノの街の人々が、のみならず対戦相手たちも含めて一体どうやって支えようとしているのか。様々な見方があるのだろうが、私は今、そこに特別な何かを見出すような思いでいるんだ。
ルーチの息子マルコは、わずか5歳にして“FOP(進行性骨化性線維異形成症)”という、発症率がなんと200万人に1人という難病に冒されていることがわかった。今、あの子は8歳になる。本当に優しい笑顔の可愛らしい男の子だ。
一方で、今季のリボルノは開幕までにメインスポンサーを得ることができず、ユニフォームの胸には一切のロゴが入らないはずだったんだが、それならばということでクラブはこのFOPと闘う患者を支えるNPO法人『FOP ONLUS』の文字を入れると決めたんだよ。そして父であるルーチは、膨大な額に及ぶ治療費を稼ぐために走り続けている。
華やかな場所ではない。そんな地方クラブで懸命に生きる選手たちを伝えることを私は自らの使命と信じてこれまでマイクを握り続けてきた。
もちろんBだけじゃない。その下のセリエC1やC2も、セリエDのピッチにも足を運び続けてきた。無数の怪我を負う選手を目の当たりにし、77年にはペルージャのピッチで24歳のレナト・クーリが、3年前にもピエルマリオ・モロシーニがペスカーラのピッチで、26の若さで命を落としている……」