「日曜の午後に決して欠くことのできない声」
「約60秒。だから『minuto per minuto』つまり『minute for minute』ということだね。現在、件のキー局に構える“ボス”はフィリッポ・コルシーニ。多くの“伝説のアナウンサー”の1人だよ。この彼の差配によって各スタジアムのアナウンサーが短く、しかし極めて的を射た情景描写で試合の経過を伝えていかなければならない。
もちろん、予め決められた順番に沿って継ないでいきながらも、たとえばどこかのスタジアムで決定機が訪れそうな気配になれば例の順番は飛ばしてその試合がオンエアになる。ゴールの連続というような事態になれば、もうそれこそカオスだよ。『ローマ、ミラノ、ナポリ、ジェノヴァ、フィレンツェ! じゃない、もう一回ローマだ!』みたいにね(笑)。
いつ何が起こるかわからないのがサッカーだからこそ、私たち“ラディオ・クロニスタ(ラジオ・アナウンサー)”には90分間を通して物凄い集中力が求められるんだ。もっとも、ここでいう私たちの集中力は実際のピッチで戦う選手たちのそれに比べれば大したことないんだけどね(笑)。そしてこの私は、ボスの差配下で毎週末の実況を担ってきたアナウンサーの1人に過ぎないということだよ」
当の本人は謙遜するが、臨場感に満ちた実況の中で他とは明らかに違う存在感を放ち続けてきたのがこのウーゴ・ルッソという「オッサン」であった。深いサッカーへの愛情とユーモアに溢れ、そして何よりもサッカーに関する圧倒的な量の知識に裏打ちされていたからこそ、彼の実況は「日曜の午後に決して欠くことのできない声」としてイタリア全土で大切にされてきた。