圧倒的な知識量と深いサッカーへの愛情
随分と冷え込みが厳しくなっていた昨年(2014年)10月12日、午後にラジオから流れてきた彼の震える声を耳にした時、私は熱く込み上げてくるものを留めることはできなかった。
ちょうどイタリア人の同僚記者たち4人とトスカーナ州の田舎町へユースの試合を取材するために車で移動していた最中だった。ラジオを聞き終えると、同乗していた彼らは「ちょっと休憩でもしようか」と言い、運転している私にサービスエリアで停まるよう求めてきた。
彼らもまた涙をこらえきれず、かといって何か別の話でもして気を紛らわせることもできず、タバコでも吸いながら心を落ち着けるより他なかったからだ。両隣の車からも同じラジオ実況の声が聞こえてくる。そして車を降りると、外では30代後半の男がこう呟いていた。
「48年だよ、48年。あのオッサンの渋い声、生まれた時から聞いてきたんだよなあ。でももう次の日曜日から聞けないのか……」
その「オッサン」改め声の主は、ウーゴ・ルッソという名の記者、正しくは、ラジオの実況に生涯を捧げたアナウンサーである。ローマ出身、1950年生まれ。18歳になる前から「レコード」という名の地元の小さな新聞に寄稿し、74年にはローマ初のラジオ局でも働くようになった。
【次ページ】スタジアムでラジオ放送を聞きながら試合を見る文化