「アイツにとっては苦渋のタイミングかもしれない」
エースとして、チームを勝たせられない悔しさを誰よりも感じていた。そんな中で移籍が決まった。G大阪戦を落とした磐田は3連敗を喫した。勝利を置き土産にできなかったことは心残りだったはずだ。しかし、名波浩監督は小林の決断を尊重し、背中を押している。
「チームがこんな状況でアイツにとっては苦渋のタイミングかもしれない。それでも、いちサッカー選手の夢を諦める必要はないと俺は思う」
今回のオランダ移籍を機に、国際レベルの選手への階段を駆け上がっていけるか。それは本人次第だろう。24歳と若手とはいえない年齢で、ヨーロッパのクラブも大事に育てるというよりは、即戦力としての活躍を求めるはずだ。決して簡単な道のりではないが、ステップアップのチャンスが目の前にあるにも関わらず、それを無視することなどできない。そして、仮に結果が残せなかったとしてもそれは失敗ではない。無論、小林は成功だけを見据えてオランダに乗り込むはずだが。
ヨーロッパ行きを実現させた小林。新たなスタートではあるが、彼のサッカー人生はずっと繋がっている。小さな頃からボールを追いかけ、東京ヴェルディでは下部組織時代から注目され、トップチームでは19歳にして10番とキャプテンを同時に任された。
磐田に新天地を求めてからは試合に絡めない時期もあった。これでもかと言うほど悔しい思いもしたはずだ。その中で名波監督と出会い、同じビジョンを描く指揮官のもとでノビノビとプレーし、そして爆発的な進化を遂げた。多くの人との出会いが小林を一回り大きな男に成長させた。
これまで経験してきたもの全てが糧となり、今の彼を形作っている。濃密なサッカー人生を送ってきた天才レフティーは、満を辞して世界の扉をこじ開ける。サッカー選手として、“頂点”に向かって突き進む姿を見せることこそ、支えてくれた人たちへの『恩返し』となるはずだ。
(取材・文:青木務)
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