ピッチ状態の利用。GKならではの感覚を活かしたパス
【計算その1 ピッチ状態を利用する】
いつもならば試合前に散水される埼玉スタジアムのピッチが、ベルマーレ戦の前に限ってはほとんど何も施されない状態でキックオフを迎えていた。高湿度に弱い同スタジアムの芝生の状態を良質に保つための措置を、西川は逆手に取ろうと考えていた。
「いつもは芝生を濡らすんですけど、今日は濡らさなかったのでボールが止まるんです。そこを上手く利用しようと思っていました」
水をまかなければ、ボールは芝生の抵抗をより強く受けるようになる。そこへ強烈なバックスピンをかけたロングパスをワンバウンドさせれば、ボールはほぼ真上に弾む。
慌てて飛び出してきたベルマーレGK村山智彦の目測を誤らせ、一瞬ながらハイボールの処理で後手に回らせた意味でも、ペナルティーアーク付近であえてワンバウンドさせた狙いは的を射ていた。
実際、184センチで手も使える村山に堂々と競り勝ち、無人のゴールへボールを流し込んだ167センチの関根は、笑顔で今シーズン2ゴール目を振り返っている。
「キーパーが一瞬止まったので、思い切って飛び込めたのかなと。止まったのが見えたからこそ、逆に恐怖心というものはなかったですね」
【計算その2 相手キーパーの正面に蹴る】
味方からのバックパスをトラップした西川は、すぐに蹴ることなく、ボールを左前方へ小さく転がしている。そして次の瞬間、素早くステップを踏んで助走に入り、左足を振り抜いた。
右ワイドの位置からゴール中央へ、いわゆるダイアゴナルの動きで走り込もうとアクションを起こしていた関根のために、ベルマーレの選手たちの注意を引きつける絶妙の間合いだった。もっとも、時間を作ることだけが目的ではなかったと、試合後に西川は明かしている。
「正面から飛んでくるボールというのは、距離感がつかめない分、ゴールキーパーとしては前へ出るのが非常に難しいんです。しかも会場が(ベルマーレにとって)アウェイで、時間も早かったので、余計に難しかったのでは。横からのボールに対しては、ある程度距離感をつかめる意味で出やすいんですけど」
ゴールキーパーがやられて嫌なプレーは、誰よりもゴールキーパーが熟知している。ボールの位置をさりげなく微修正しながら、70メートル以上も先にいる村山のほぼ正面で対峙した瞬間、機は熟したと西川は判断したわけだ。
「本当にイメージ通りのプレーができたと思っています」