味方と乱闘、主審のスプレー奪ったことも
バランキージャ市のヒーローはアルゼンチンリーグの「ラシン」ではゴールハンターとしての天賦の才が開花した一方、たびたびトラブルを起こす問題児でもあった。プレー中に相手選手を巧みに殴る癖は常態化しており、そのためファールの判定や接触をめぐって相手選手と揉めることが多かった。
主審に体当たりした末に暴言を吐いたことがあれば、練習中に同僚のキーパーと殴り合いを始めたこともあった。挙げ句の果てはロッカールームで試合の内容を巡ってキーパーと口論になり、仲介に入った同郷のチームメイトの顔を殴るだけならまだしも、エアガンを出して「殺すぞ」と脅し、警察沙汰になったこともある。
とはいえ、そのラシン時代にアルゼンチンリーグで得点王を獲得、数年後には名門リーベル・プレートのエースとしてリーグ優勝の栄冠を手にしている。毀誉褒貶の激しい彼のことをアルゼンチンのメディアは、「テオフィロはヒーローか? 悪党か?」と問いかけた。
父親が苦虫を噛みつぶしたような表情を見せる。
「サッカーのことになると、熱くなってしまうことがある。ただ、コロンビア代表の常連となり、監督のペケルマンに素行の悪さを指摘されるようになってからは大人しくなった。家では素直で家族思いの男なんです」
昨年12月のヨーロッパリーグ(EL)でトルコのベシクタシュを迎えた試合でテオフィロは、得点を決めた直後に主審に駆け寄り、主審の腰にあるバニシング・スプレーを奪うように手にした。その日が誕生日の母親に向けてピッチにメッセージを描こうとしたらしいのだ。だがあいにく上手に噴射されず、直後にイエローカードが出されている。
気性は荒々しく動物的で顔つきもキングコングのようだが、そんな微笑ましい一面とのギャップが愛されているのか、コロンビアでの人気は高い。プレイヤーとしての彼の魅力を一言でいえば、ためらうことなく右足を振り抜く豪快なミドルシュートだろうか。ゴール前での駆け引きと小競り合いも見逃せない。
その実績と実力はもとより、生い立ち、キャラクターともにコロンビア代表メンバーの中で注目される選手であり、日本にとって手ごわい相手になるだろう。
(取材・文:北澤豊雄)
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