連盟ごとの温度差、クラブの利害が絡みあい生じた矛盾
いわゆるブラックアフリカ勢が一気にモチベーションを高めていった一方で、すでに世界中から一流選手が集まっていたヨーロッパは、クラブの利害がますます優先されていく。必然的にオリンピックの価値がさがっていったことは、オリンピック予選が存在しないことと無関係ではないだろう。
リオデジャネイロ五輪に出場するスウェーデン、ポルトガル、デンマーク、ドイツは昨年6月にチェコで本大会が行われたU‐21ヨーロッパ選手権2015でベスト4に進出した時点で、出場権を獲得している。
U‐21ヨーロッパ選手権は予選から2年間をかけて頂点を争い、本大会を戦う時点で「23歳以下」となる。実際、U‐21ヨーロッパ選手権2015の出場資格はこうなっている。
「誕生日が1992年1月1日以降の選手」
リオデジャネイロ五輪の出場資格は「誕生日が1993年1月1日以降の選手」だから、U‐21ヨーロッパ選手権2015を戦った選手のなかには今年で24歳になり、ヒノキ舞台に立てない者もいる。チーム構成が大きく変わる可能性もあるが、それでもヨーロッパサッカー連盟(UEFA)はまったく意に介さない。
そして、レーナート・ヨハンソンやミシェル・プラティニといった、歴代のUEFA会長がFIFAでも要職を務めたことで、オリンピックに対するUEFAのスタンスはFIFA内でも共有されていったはずだ。
FIFAは2009年3月の理事会で年齢制限を「21歳以下」とする改正案をまとめ、同年6月の総会に諮ろうとしていた。最終的には見送られたたが、今年2月に就任したジャンニ・インファンティーノ新会長もUEFAで理事や事務局長を歴任してきただけに、オリンピックに対するスタンスは変わらないだろう。
所属クラブの承認を得られず、リオデジャネイロ行きを断念した選手のなかには、一生に一度しかないかもしれないオリンピックの舞台を心待ちにしていた者も少なくない。その一人でもある久保は努めて気持ちを切り替え、自身のオフィシャルサイト上に日本五輪代表へのエールを綴っている。
「今は少し整理のつかない部分もありますが(中略)僕はスイスで目の前の試合に集中し、仲間の活躍と金メダルの獲得を強く強く願いたいと思います(原文のまま)」
形のうえでは「23歳以下のワールドカップ」を謳いながら、大陸連盟ごとの温度差や思惑、クラブチームの利害が絡みあうがゆえに生じた矛盾を抱えたまま、南米大陸で初めて開催されるオリンピックは華やかな開会式に先駆けて、日本時間5日の男子サッカー競技のグループリーグ第1戦から幕を開ける。
(取材・文:藤江直人)
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