「慎三がいない間に何点取れるかが自分の勝負」
いまも悔しさを募らせ、忘れられない一戦がある。6月11日。ホームの埼玉スタジアムにアントラーズを迎えたファーストステージの大一番で、レッズは0-2の完敗を喫している。
ショックを引きずったままガンバ大阪、サンフレッチェ広島にともに敵地で苦杯をなめる。悪夢の3連敗で優勝争いから脱落し、最終的にはアントラーズに勝ち点6差の3位に甘んじた。
現行のシステムではセカンドステージを制するか、年間総合順位で3位以内に入らない限り、レッズは年間王者を決めるJリーグ・チャンピオンシップへ進むことはできない。
必死に気持ちを切り替え、ファーストステージ第16節から再び上昇気流に乗った。大宮アルディージャと引き分けた前節で連勝こそ「5」でストップしたが、負けないことが何よりも大事だと考えれば、敵地カシマスタジアムに乗り込んだ23日の一戦は、今シーズンの生死を隔てる重みをもっていた。
試合後の取材エリア。興奮冷めやらない様子の柏木に聞いてみた。今日の勝ちは大きいのでは、と。にべもなく響いた返事は、それだけ白星奪取に全神経を集中させていたからだろう。
「誰がどう考えても、はい。そんなの愚問です」
ましてや、攻守のキーマン、興梠と遠藤を欠いた一戦だったからなおさらだ。だからこそ、ストライカーとしての感性を蘇らせた李忠成が「救世主」として舞い降りたことは、興梠が最大で5試合不在となる夏の陣を戦っていくうえでも計り知れないほど大きい。
負傷の影響などもあり、コンディションがなかなか整わなかった昨シーズンは先発がわずか7試合。プレー時間は792分、ゴール数もわずか2に終わっていた。翻ってゴール数ですでに2年前を超えた今シーズンは19試合に先発し、出場時間数でも2倍強の1592分を数えている。
「李忠成はまだ終わっていないぞ、というのを見せることができた。まだまだゴールにこだわっていくし、慎三がいない間に何点取れるかが自分の勝負だと思っているので」
チーム内のライバル関係をはばかることなく公言することで、切磋琢磨しながら成長していく雰囲気をも醸成されていく。セカンドステージで首位の川崎フロンターレに、年間総合順位では2位のアントラーズにそれぞれ勝ち点で並んだレッズの中心で、李忠成がひときわまばゆい輝きを放ちつつある。
(取材・文:藤江直人)
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