名将の系譜に連なるアルゼンチン人監督
彼はマルセロ・ビエルサ、ジョゼップ・グアルディオラ(サンパオリの助手はペップの師の一人、フアンマ・リージョである)の系譜に連なる監督とされるが、緻密なフットボールの構築はすでに始まっている。
ただし、そのような監督であるこそ、前述したようにファンは不安も覚えているのだ。サンパオリは地域リーグのグル(導師、指導者)など、なかんずく戦術マニアにとっては興味深い人物だろうが、ただただセビージャを愛するだけの人々には、戸惑いを感じさせていることも事実なのである。
例えばグアルディオラはバイエルンでも知性に訴える享楽を提供したが、その理詰めのフットボールがハートのフットボールを愛するゲルマンなる人々の魂を震わせたとは言い難い。加えてカタルーニャ人指揮官はバイエルンの入団会見にドイツ語で臨んだが、その後語学は一向に上達せず、選手を「スーパー、スーパー」と形容することしかできないなどの拙さによって記者陣から失笑も買っていた。バイエルン最大の目標でもあるチャンピオンズリーグ(CL)優勝も逃した気難しい戦術家が、クラブやファンとアイデンティティーを一致させることは難しかった。
一方サンパオリの場合、言語はアルゼンチンと同じスペイン語なので問題ない。が、グアルディオラ同様に理詰めのフットボールを追求するために、エメリの成功のベースとなった陣容・システムを破壊しながらイノベーションを推進する姿勢は、アンダルシアの人々にとっては独善的にさえ映り、動揺を与えている。今夏のセビージャは、これまでのような選手売却の必要に迫られていないのだから。そして最も気がかりであるのは、そうしたイノベーションをもたらしているアルゼンチン人指揮官が、欧州のフットボールに初めて挑戦するという点である。
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