識者が指摘する契機となった02年日韓W杯
「2002年日韓W杯が『ネット右翼』を生み出した引き金となった」と言うと、戸惑う人が多い。そして怪訝な顔をして問い返してくる。サッカーがきっかけですか? 本当にそうなんですか? と。
例えば、現在都知事選に元代表が立候補している、排外主義団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)等の、いわゆる「右派市民グループ」を調査し、詳細な聞き取り調査をした樋口直人は、その著書『日本型排外主義―在特会・外国人参政権・東アジア地政学』(名古屋大学出版会)にて、巷間言われるように、「ネット右翼」と呼ばれる人達が、2002年W杯を機会に増えてきたという仮説を否定している。
ところが一方で、ジャーナリストの安田浩一は同じように在特会のメンバーへの取材で、ほとんどのこれらの「ネット右翼」と言われる人達が2002年をきっかけに「真実」を知り「嫌韓」となった、と振り返っていることを記している(『ネットと愛国―在特会の「闇」を追いかけて』講談社)。
ネット事情に詳しい若手の政治評論家である古谷経衡も、複数の資料を引用しながら、「ネット右翼」の発生が、やはり2002年のW杯がきっかけだったことは「確定的」だと結論づけてもいる(『ネット右翼の逆襲―「嫌韓」思想と新保守論』総和社)。
これらの学術的、ジャーナリスティックな論評はともかくとして、実際に2002年に、サッカーをきっかけとして、いわゆる『嫌韓』やこれに結びついた在日コリアンに向けたレイシズムが爆発的に増大したことは、当時のネットユーザーであれば、ほとんど実体験していることではなかろうか。
なぜ、サッカーをきっかけに「ネット右翼」という新しい政治クラスタが形成されたのか、「嫌韓」や排外主義や差別思想が広がるきっかけとなったのか。