敗戦にショックを受けるも、切り替えるフランスの人々
フランスが勝ち進むにつれて、国民の意気がどんどん上がっていくのは、会場以外の場所でも感じた。
ある夜は、メトロの構内でバスキングしていたミュージシャンに合わせて、30人くらいの老若男女が楽しげに踊っていた。他国のサッカーシャツを着た人たちを見つけると、声をかけて一緒にセルフィーに収まっているフランス人も大勢見かけた。
ふだんならありえない光景だが、この大会の期間中、人々はいつになく開放的になっていた。それは反動でもあった。昨年11月のパリでのテロ事件以降、表向きは普通の生活をしていても、人々は心の奥底では不安を抱え、なんともいえない、陰鬱な思いを抱えて生きているからだ。
それが、この大会の盛り上がりに乗じて一気に解き放たれて、爆発した感じだった。ファンゾーンに集まった人々はテレビカメラに向かって、「こんなことは久しぶり!」、「フランスに一体感が生まれてうれしい!」と口々に言っていた。
敗戦直後はショックを受けていても、立ち直りが早いのもフランス人だ。人々はすでにバカンスで頭がいっぱいで、あんな残念な結末も、「C’est la vie!」(それが人生!)と受け流している。ネガティブな状況をクールな生き様に変えてしまうのは、フランス人の得意技なのだ。
レ・ブルーに対しても、「将来に期待がもてる結果だった」と前向きな論評ばかり。悲劇のヒーローたちが2年後のW杯でリベンジするという新たなシナリオに、人々は期待している。
各クラブはすでに始動し、9月にはさっそく18年のW杯予選も開始する。ドラマチックだったEUROは終わったが、また新たなフットボールストーリーが始まるのだ。
(取材・文:小川由紀子【パリ】)
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