状況に応じて戦術を切り換える現代サッカーの潮流
ハイラインハイプレッシャー系
相手陣内に押し込み、一度ボールを持たせて高い位置で奪い返してショートカウンターを狙う戦術。ユルゲン・クロップ監督時代のドルトムントで実践していたゲーゲンプレスはこの系統
中盤がコンパクトなゾーンプレス系
最終ラインから前線までをコンパクトにして守備網を形成、中盤で相手を囲み、いわゆるボール狩りをして攻撃につなげる戦術。採用したチームではアリゴ・サッキ監督時代のミランが代表的
リトリートしてのブロック戦術
主に4-4-2を用い、最終ラインと中盤ラインの4-4でブロックを形成、ゴール前に防護壁を置いてディフェンディングサードへの進入を許さない戦術。相対的に劣るチームが採ることが多い
前述した戦術論議の“深化”とは、言い換えればディテールをよく観るようになってきているということでもある。
試合が始まると、まずは両チームのフォーメーションを確認しながら、誰が相手の布陣のどこに入り込んで何を狙っているか、どのルートでビルドアップしようとしているか、どこがマッチアップしてどこにスペースが生まれているのか――が、観る者の目につくはずだ。
それから、最終ラインの高さ、最終ラインから前線までのコンパクトさ、あるいは片方のサイドから逆サイドまでのコンパクトさ。どこでボールを奪おうとしているか。相手のボール保持者に、誰がどうプレッシャーをかけて、どこに追い込もうとしているのか。
このように豊富な情報を咀嚼すれば、その日の両チームに対するイメージがイキイキとしたものとして脳裏に描かれていく。
試合の鍵を握るのは“対策”だ。
たとえば、あるチームが守ってカウンターという狙いでキックオフを迎えたとする。ところが試合が始まってみると、相手は自陣に引いてしまい、カウンターで攻め込むスペースを与えてくれない。仕方なくヨコパスをつないで様子をうかがっているうちにインターセプトされ、カウンターで失点してしまう。
このように狙いを外されるといった光景は珍しくない。直近の戦い方を分析し、相手の狙いを外そうと“対策”を練る。一年間がこの繰り返しだ。
フォーメーションも同様で、相手が2トップだと思ってセンターバック型を3人揃え、数的優位をつくろうとしたものの、蓋を開けてみると相手は1トップでディフェンスが余ってしまった。
そのぶん数的不利となった中盤を使われ、ピンチに陥る、といったことがありえる。いわゆる「ハマる、ハマらない」の問題だが、初期ポジションでのマッチ/ミスマッチどころか、相手がマークにつけない曖昧な位置で、わざと選手を遊ばせて確実にミスマッチにさせようというような策もあり、フォーメーションをマッチさせて相手を術中にハメようとする狙いも、そう簡単にはいかない。
究極の戦術は王道のサッカー。つまり、サイドもあれば中央もある。守ることもできれば攻めることもできる。
ゆっくりつなぐ時間帯もあれば、速攻を狙う時間帯もある。前からプレッシャーをかけてよし、後方にリトリートしてブロックを形成してよし。4バックにも3バックにも対応できる。
相手に応じて柔軟に戦い方を変える臨機応変さがあり、すべてにおいて地力が高いチームこそが、状況における戦術を選び取ることのできる実力あるチームということになる。
高い位置でプレッシャーをかけてボールを奪うショートカウンターが不発に終わると何もできなくなるようなチームが優勝できようはずもない。貧弱なフィジカルのチームでは、センターバックが受けて跳ね返す王道の守備はできないから、集団で囲い込んでボールを奪わないと……という発想はあってしかるべきだが、やはり現代サッカーの流れは、状況に応じた戦術の切り換えにあると考えていい。