愛すべきロコ、“ロコ・リンド”
ビエルサがエル・ロコと呼ばれるのは決して「変人だから」でも「常識外れのことをするから」でもない。ひとつの物事に対する執着心やこだわりが半端ではなく、これと決めたら徹底的に追求し、そのとおりに実現しようとする。
中途半端なこと、曲がったことが大嫌いで、口先ばかりで行動が伴わない人も嫌う。不均衡や不公平も好まない。几帳面で誠実で、口約束も必ず守る。アルゼンチン人としては「尋常ではない」かもしれないが、我々日本人の目から見れば、むしろ「まともな人」と言っていい。
イタリアの名将アリーゴ・サッキは、敬意を込めて「ビエルサは24時間サッカーのことだけを考えている完璧主義者」と言った。アルゼンチン代表監督時代は1トップにこだわり、当時ゴールを量産していたガブリエル・バティストゥータとエルナン・クレスポを同時に起用することはなかった。
08年、チリ代表監督として同国のU23代表を率いてトゥーロン国際ユース大会に出場した時は、試合後イタリアの監督に「9番へのロングパスだけではプレーしているとは言えない!」と大声で何度も怒鳴り、単調なゲームをさせる指導者への不満を爆発させた。
完璧主義者らしく、一度定めた目標や描いた理想を実現するための妥協は許さない。こういった頑固でぶれない性格こそ、ビエルサがエル・ロコと呼ばれる理由であり、ラツィオを2日間で辞任した理由でもあるのだ。
アルゼンチンの人たちは、愛すべきロコのことを「LOCO LINDO」(ロコ・リンド=美しいロコ)と呼ぶ。ビエルサはまさに、ロコ・リンドの代名詞なのである。
(取材・文:藤坂ガルシア千鶴)
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