相手に脅威を与えた強力2トップ
変幻自在な攻撃が魅力の川崎Fを、『ショートパスで崩すスタイル』と断定することはできない。もちろん、細かい繋ぎをテンポ良く繰り返しながら相手を仕留めることもできるが、相手の隙を狙ってゴールへの最短距離を瞬時に導き出せる点も脅威だ。そうしたリズムの強弱をつけているのが、中村憲剛だ。
「憲剛は40m級のロングボールをスパンと出してくる。本当に虚を突いた、しかも穴を突いてくるから。あれをやられると全員ひっくり返される。前回対戦の後半は憲剛のそれに苦しめられた。スパン、スパンとどんどん出してきて、それはこっちは下がらざるを得ない状況になっちゃうよね」
中村という存在の怖さを名波監督はこう話していたが、リーグ最高の司令塔が不在という状況は、磐田にとって間違いなく重要なポイントだった。大きな展開が少ないからラインを下げさせられる場面も減り、磐田の守備陣は高い位置を保つことができた。
5月に等々力陸上競技場で激突した時もボールを支配したのは川崎Fで、特に後半はほとんどワンサイドゲームだった。磐田としては、あの試合からいかに巻き返せるかというところも一つのテーマだった。そして、今回はジェイとアダイウトンの2トップという布陣を採用。贔屓目抜きにリーグ屈指の外国籍選手が最前線にいることは、相手にとっても厄介の種となったようだ。
谷口彰悟は、安定感のある守備でチームに落ち着きをもたらしていた。筑波大学時代に風間八宏監督の指導を受けており、同監督の愛弟子とも言えるCBは、川崎Fのディフェンスリーダーとして90分通して奮戦した。ジェイの高さにも怯まず、アダイウトンのダイナミックな突破を前にしても我を失うことはなかった。攻撃の権化のようなこのチームがここまで年間18失点しか喫していない。韓国代表GKチョン・ソンリョン、奈良竜樹、エドゥアルドといった実力者の加入はもちろん、谷口の貢献度の高さも見逃せない。
しかし、川崎Fの守備を統率する谷口をしても磐田の2トップは強烈だったようだ。
「彼らは個で打開できる。しかもうまく攻め残っていたので、そこは嫌だなという感じがあった。前半は特にそこをうまく使われていて、できるだけボランチと挟んだりというのを意識していたが、局面、局面では一対一になる場面があったし、そこでちょっとうまいことやらせてしまうことがあった」