選手適性が伴わなければ真価を発揮できないフォーメーション。組織をとるか、個をとるか
純粋なセンターフォワードではない、戦術眼のある技巧派、ヨハン・クライフが流動的なトータルフットボールを可能にした【写真:Getty Images】
ルチアーノ・スパレッティ監督時代のローマでゼロトップシステムの中核を担った10番型、フランチェスコ・トッティ【写真:Getty Images】
その小柄な肉体を最前線から消し、空いたスペースを周囲の選手たちに使わせる、バルセロナの超点獲り屋リオネル・メッシ【写真:Getty Images】
しかしゼロトップが誰にでもできるわけではないし、その反対に抱えている選手層によっては、ゼロトップを採用する必要がない場合もある。たとえば、バルセロナのエースがリオネル・メッシでなければ「仮に9番と設定しておいて、実際にはその選手が下がってきて空いたスペースを他の選手が交互に使う」ことにはならなかったかもしれない。身長190cm以上の2m級のセンターフォワード、オリバー・ビアホフやヤン・コラーがいれば、明確な1トップや3トップを採用してもいいはずだ。オランダ代表にしても、ヨハン・クライフが前線のリベロとして流動的に動く才覚を持っていなければあのシステムは務まらなかっただろう。つまり、フォーメーションは選手の適性と密接に関連している。
まず、かくあるべしという信念を持ち、基本に据えるフォーメーションを決める。もしやろうとするサッカー、採用するフォーメーションに選手が合っていなければ、たとえ主力であってもベンチに置きながら再教育するか、放出するかの選択を迫られることになる。しかし台所事情が苦しく優秀な選手に乏しい場合は、当初の構想を修正、選手に合わせたフォーメーションへの変更を余儀なくされるだろう。勝つための戦術なのに、それを遂行できず勝てないのなら意味はなくなるからだ。サイドバックが不在なら4バックを無理に採らず3バックにすればいい。前線がセンターフォワードかセカンドトップのタイプにかぎられるなら、ウイングが必要な3トップではなく2トップにすればいい。フォーメーションは選手に応じて変えていくものでもある。
これを言い換えると、選手が単一ではなく複数のポジションをこなせたほうが、実行できる戦術の幅がグッと拡がるということになる。もしもウイングの選手がサイドハーフも兼ねることができ、2列目の選手が3列目も兼ねることができるなら、4-1-2-3から4-4-2への移行はスムーズだ。しかしそれができないのなら、いくら優秀な選手であっても、フォーメーションの変更とともにベンチへ下げるしかなくなる。「戦術的な交替」とはそういうものだ。監督の指示のみならず、場合によっては選手の判断で試合中のフォーメーションを変えることも珍しくない現在、以前にも増して複数ポジションをこなす選手の重要性は高まっている。いわゆるユーティリティプレーヤーではなくとも、ふたつ以上のポジションでプレーできて当たり前の時代に入った。戦術運用の進歩がサッカー選手の成長を促したとも言える。選手が持つ適性を抜きにしてフォーメーションを語ることは決してできないのだ。