時代は繰り返す。4-4-2のフォーメーションが現代のトレンドに
クライフのオランダ代表(リヌス・ミケルス監督)
ヨハン・クライフがセンターフォワードを務めた1974年のオランダ代表、トータルフットボール時代。リヌス・ミケルス監督。クライフが中盤に降りてくる動きが象徴的だが、それだけでなく、チーム全体にプレッシングとカバーリングの連続から流動的なプレーが生まれた
トッティのローマ(スパレッティ監督)
フランチェスコ・トッティがセンターフォワードを務めたゼロトップシステム時代のローマ。ルチアーノ・スパレッティ監督。トッティとペッロッタの入れ替わりなど、状況によって可変するシステム
アトレティコ・マドリー(シメオネ監督)
4-4-2の堅守速攻に回帰した昨シーズンのアトレティコ・マドリー。ディエゴ・シメオネ監督。フォワードが中盤ラインに参加して厚みを出し、奪う位置を高くとることを可能にした。基本的にはブロック守備
欧州選手権(UEFA EURO 2016)のセミファイナルでフランスがドイツを下した試合に象徴されるように、2015-16シーズンの欧州サッカーは4-4-2の復権が目立った。ボール支配率はドイツ65%、フランス35%。ボールを相手に持たせたほうが勝った。世界最高の水準でも、相対的に力量差があれば、どちらか一方は相手をリスペクトした戦術を採用するものだが、それをより洗練させたと言えばいいのだろうか。ブロックを組み、リトリートしての堅守速攻。4-2-3-1、4-1-2-3、4-1-4-1、3-1-4-2の流行があり、最終ラインと中盤ラインがフラットな4-4-2はひと世代前のフォーメーションとなっていたが、レスターとアトレティコ・マドリーが新しい波を立て、フランス代表がEUROの舞台であらためてその有用性を示した結果を出した。
サッカー界において、アリゴ・サッキが率いたACミランのゾーンプレスは、オランダ代表とアヤックスのトータルフットボール以来の革命的な出来事だった、頑健な肉体と鉄の規律でプレッシングを繰り返したこのスーパーなチームが採用したのは4-4-2だった。以後、対抗策が生まれ、そのまた対抗策が……と、最新の戦術は次々に変化していく。両サイドを二枚で塞ぎつつトップ下のスペースを埋めた4-2-3-1、アンカーを中心とした扇型の布陣で相手にプレッシャーをかけつつボール支配をもくろむ4-1-2-3など、フォーメーションは単なる初期配置ではなく、戦術や個々の機能と一体化したシステムの代名詞となっていく。ティキタカ(テンポのいいパス廻し)、ゲーゲンプレス(意図的に相手に持たせて高い位置で奪い返してのショートカウンター)など、現象面でもっとも目立つ戦術用語と組み合わせると、おおよそのチーム像が浮かんでくるという寸法だ。フォーメーションとは、戦術を入れる器とも言えるのかもしれない。
そして現在の4-4-2。イタリア人のクラウディオ・ラニエリ、そして現役時代はイタリアのインテルで活躍したアルゼンチン人のディエゴ・シメオネが、それぞれレスターとアトレティコ・マドリーでこのフォーメーションを採用し、脚光を浴びた。戦術的に時代遅れとされつつあったイタリアの系譜から、ふたりの名将が出現したことはサッカーファンとしては大変興味深い事象である。戦術の新しさとは、結局はほかの誰かがやっていないものをやること、最新の戦術への対抗策であるからこそ、古い戦術がひとまわりして再び流行するというのは、ありえることだ。もちろんそれは、ただ古いままではなく、一段階の進化を遂げつつ、ではあるが。近年にローマやバルセロナで話題となったゼロトップシステムも、もとを辿ればヨハン・クライフやヨハン・ニースケンスが“所在不明”であったオランダ代表(1974年)の姿と言えなくもない。似た発想。時代は繰り返すのだ。