国内屈指の名手ながら、FKでキッカーを務めない理由
ピッチを離れればとにかく寡黙になる阿部は、極端な恥ずかしがり屋だと自認している。集団のなかでほとんど目立たないし、すすんで目立とうともしない。
チームを2‐0の快勝に導き、ファーストステージから数えて4連勝を達成したレイソル戦後の取材エリアにおける第一声にも、阿部の人柄が凝縮されていた。
「入っちゃいましたね。こんなこともあるんだなって。あの感触だと入るんだな、という感じでした。相手も僕が蹴るとは思っていなかっただろうし、だから入ったんじゃないですかね。あまり記憶にないですけど、僕が覚えている限りでは2009年以来じゃないですかね」
周囲に幾重もの輪を作ったメディアから「2010年4月3日の湘南ベルマーレ戦以来じゃないか」と指摘されると、何とも照れくさそうに記憶の糸を紐解いた。
「2010年? あれ、ディフェンスに当っているから。だから、(ディフェンスに)当たらないで入ったのは、2009年に千葉とやったとき以来じゃないのかな。でも、久々に蹴ったわりには気持ちよく(右足に)当たってくれた。距離的にも近すぎず、遠すぎずで、自分のリズムでしっかりとボールをミートできればいいかなという気持ちで蹴りました。本当に(ボールが右足の甲に)乗っかったという感じでした」
2009年10月3日、場所も同じ埼玉スタジアムで行われた古巣ジェフ千葉戦の前半10分に決めた同点弾以来となる、直接FKからの完璧なるゴール。実に7年もの時空を埋めた阿部が、少しだけはにかんだ笑顔を浮かべた。
直接FKによるゴールは通算9点目。高精度のキックを自在に操ることから、ジェフ時代にはイングランド代表の名手、デビッド・ベッカムになぞらえて「アベッカム」とあだ名された実力の持ち主であることを考えれば、もっと数字を伸ばしていても不思議ではない。
しかし、ジェフ時代は水野晃樹(現ベガルタ仙台)、日本代表では中村俊輔(横浜F・マリノス)と遠藤保仁(ガンバ大阪)、いま現在のレッズでは柏木や槙野が蹴るケースがほとんどを占めている。
自らはペナルティーエリア内に陣取り、競り合いからゴールを狙う役割に徹してきた理由を阿部本人に聞くと、決まってこんな言葉が返ってくる。
「まあ、他の人が蹴ってくれるので」