ペレとともにプレーした名手たちも登場
私の年代から上(50代半ば以上)のサッカーファンならきっと一度や二度、いや、おそらくは何度も見聞きしてきたであろうペレの伝説がいよいよ始まる。ストーリーは本編で確認してもらうとして、私の感想としては登場人物が全編にわたってとにかく愛しい。
ファヴェーラ(ブラジルのスラム街)で暮らす両親と弟・妹、幼なじみ、近所の人々。そしてサントスに加入してからはペレをして「彼がいなければ私はW杯で三度も優勝することはできなかっただろう」と言わしめたガリンシャ、そして2015年「世界で最もハンサムな顔」1位に選ばれたディエゴ・ボネータ演じるペレのライバル役ジョゼ・アルタフィーニ。そういえばジジ、ババという選手もいた。
フェオラ監督からラジオの実況アナウンサーに至るまで、とにかく私には愛しく、そしてどこか物悲しい。「マラカナンの悲劇」をどこかに纏っているからなのか。
ヂッコ(私はこの映画を観るまでこの愛称を知らなかった。ペレと呼ばれるようになる前の少年時代の愛称である)からペレ、そして伝説へ。その最初の過程が描かれているのだが、なぜペレがサッカーで偉大な足跡を残せたのか、なぜそれがサッカーだったのか、そこが実に丁寧に描かれている。
もう何年も前から思っていることだが、アメリカ映画もヨーロッパ映画も、そして残念なことに邦画でも、どれもこれも説明過多でうんざりしている。映像作品なんだからいちいち言葉で説明しないで映像でわからせてくれよ、と。
その点『ペレ 伝説の誕生』は丁寧ではあるが、セリフによる説明ではなく、エピソードの積み重ねで自ずと心の動きをわからせてくれるのだ。特に父親と母親のサッカーに対する心理描写は見事であり、それがあってのペレだということが痛いほど伝わってくる。