“ドラゴンズ”はヒーローとして母国に凱旋へ
以後、ベイル以下の追撃には目に見えてムダとムラとムリが折り重なり、思うようにビルドアップできない焦りがそれをさらにあおっていく。そこには明らかに「いつもならあるはずの重要なピース」が欠けていた。
ここに及んで、ラムジーの不在がまるで遅効性の毒のように効いてきたのである。代役のアンディー・キングは、何を隠そう、あの“ミラクル・レスター”のナンバー10。2部時代を支えてきた紛れもない大黒柱。ところが哀しいかな、大化けした新戦力マーレズ、カンテの陰に隠れて過去1年間の実戦経験はごくわずかに限られていた。そんな彼のせいには到底できない。
矢継ぎ早にコールマンが打つ手も哀しいほどに空回りするだけ。レドリーを、コリンズを下げ、ヴォークス、J・ウィリアムズを投入しても流れは一向に変わらない。やっとめぐってきたベイルとっておきのミドルシュートも敵キーパーに弾かれて…万事休す。
ただし、それらも今にして思えば、遠来のファン、サポーターたちへの感謝、尽くせる手は尽くす気合いの証、そして9月から始まるW杯予選への大いなるメッセージであったはずだ。だからこそ、涙はあっても悔いはなく、スタド・ドゥ・リヨンを真っ赤に埋め尽くしたファンに怒りのかけらもなく…そして――。
Byddant yn dychwelyd yn arwyr (They will return home as heroes)。 それはそのまま、夢の続きはまだ終わってはいないことを確かめ合う合言葉なのに違いない。
(文:東本貢司)
【了】