滞在許可証のないアルバニアの少年
先の6月13日、史上最弱とまで言われていたイタリア代表がEUROで優勝候補の一角と目される強豪ベルギーにまさかの勝利を収めると、その興奮冷めやらぬ翌朝なのでみんなボールを無性に蹴りたかったんだろう。
いつも息子が友達と遊んでいる自宅(イタリア・フィレンツェ)近くのダゼーリオという名の広場へ散歩に行くと、やはり想像した通り、普段より遥かに多い数のイタリアの子供達がいて、アルバニアやルーマニアの少年たちもたくさん集っていた。
そして、この14日の広場に来ていたアルバニア人は皆が15、16歳。しかしこの国へ来たばかりでまだイタリア語がほとんどできないため、もちろん込み入った話はできなかったのだが、私の下手くそな英語と少しばかりの彼のイタリア語で言葉を交わしたのは、アルバニア出身の1人の少年(15歳)、名はアルバンくんという。
この子は3歳の時に父親(当時32歳)を交通事故で亡くした。貧しい暮らしの中で母親とも生き別れになり、その日の広場に来ていた同い年の仲間たちと一緒に、つまり少年たちだけで、つい最近、イタリアへ入国したという。ただ、身寄りもないため滞在許可証はなかなか取れず、極めて苦しい生活を強いられている。
そんな日常の中で、きっと異国での様々な難しい事柄や辛く悲しい母国での思い出を束の間でも忘れるためなのだろう、彼らはほぼ毎日のようにこのダゼーリオという名の広場へ、午前中に来てはボールを蹴っているのだという。
なぜ午前中だけなのか。どうして午後には来ることができないのか。その理由は定かではない。尋ねてみようかとも思ったが、そこは赤の他人が立ち入ってはならぬ部分であることは明らかなので、想像するに留めておくことにした。あくまで一般論だが、いわゆる「不法滞在者」たちがいかにして生き延びているのか、その実態を少なからず知っているからだ。
そうしている間も、子供達のサッカーは続いている。