無意識のうちに染みついた伝統
昨シーズンの開幕直前にポルティモネンセ(ポルトガル)から期限付き移籍で加入し、今シーズンからは完全移籍で再加入した金崎は「ジーコスピリットなんて知らない」と公言してはばからない。
山形市で生まれ育った土居も然り。現役復帰を果たしたジーコがJリーグ第1号のハットトリックを達成した1993年5月16日の5日後に、ようやく1歳になった。
ただ、現時点におけるジーコスピリットの伝承者、小笠原の頼れる背中を介して感じるものはある。ジーコスピリットをたどっていけば、土居が口にした「勝利への執着心」に行き着くからだ。
ゴールに絡むだけではない。労を厭わない前線からの執拗な守備。味方のためにスペースを作るなどといった自己犠牲の姿勢。勝利をつかむために、ピッチのうえで土居が無意識のうちに実践しているプレーこそがアントラーズの伝統。だからこそ、常勝の歴史が紡がれていく。
「自分が出た試合では、何かしら結果を出さなきゃいけないと思っていました。スタメンで出ることが少なかったので、貢献できたかどうかはわからないけど、そうなる試合がファーストステージの終盤にかけて多くなったというか。けがで迷惑をかけた分、みんなに恩返しできたのかなというのはあるので。個人としては、けがをした分はチャラになったかなという感じですかね。
ファーストステージのチャンピオンになったことで、セカンドステージでは他のチームが『打倒・鹿島』でくると思うし、だからこそファーストステージ以上に厳しい戦いになる。もうワンランク上に行くためには、そういうところにも打ち勝っていかなきゃいけないので。セカンドステージは僕たちの強さが試されるというか、鹿島の真価が問われるんじゃないかなと感じます」
過去に3度築かれた黄金時代を振り返れば、「10」番はアントラーズの象徴かつ心臓を、「3」番は最終ラインで城壁を担ってきた。今シーズンのファーストステージを振り返れば、柴崎と昌子は同じ役割を果たしている。
ならば、ゴールやアシストで得点に絡んできた「8」番の継承者はどう感じているのか。自己最多となる2014シーズンの8ゴールを大きく上回ることで、1992年生まれのプラチナ世代の一人として、土居は伝統のバトンをしっかりと受け取る青写真を描いている。
「ゴールは取れるだけ取りたいし、それが自分のためにもなりますし、チームのためにもなる。ファーストステージ以上に抜け目なく、貪欲にゴールやアシストを狙っていきたい」
アントラーズにとって、タイトルにカウントされないステージ優勝は通過点でしかない。セカンドステージも制し、チャンピオンシップで年間王者を勝ち取るために。得点センスと泥臭ささをあわせもつ異能のストライカー・土居は、ガンバ大阪をホームに迎える2日の開幕戦へ静かに闘志をたかぶらせている。
(取材・文:藤江直人)
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