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サッキ革命を超えた、技巧派の復権。DFラインの後退、ポゼッションとブロックの対峙へ【西部の4-4-2戦術アナライズ】

シリーズ:西部の4-4-2戦術アナライズ text by 西部謙司 photo by Getty Images

前方と後方で復権した技巧派

 ディフェンスラインはペナルティーエリアのすぐ外側まで後退し、その前にMFが引いてラインを形成。4-4の守備ブロックを後方に構えた。これでライン裏をつかれるリスクはかなり減少する。半面、相手を自陣に引き込んでしまうために、ミスが自陣で起こりやすくなるという別のリスクを抱えた。同時にボール奪取地点が低くなってしまうので、カウンターアタックの距離が長くなって1本のパスで決定機を作るのは難しくなった。

 ラインの後退はいくつかの副産物を生み出している。守備側が後退してしまうので、後方のビルドアップに余裕ができた。前線プレスさえ回避してしまえば諦めて下がってくれるので、CBとボランチでボールを確保できる。ペナルティーエリアの前はブロックで固められているが、その手前まではCBとアンカーがフリーマンとして振る舞えるので、これらのポジションに技巧派を起用する余地が生まれた。また、安定したボールポゼッションからブロックへの侵入を図るためには前方のMFにも高い技術が必要になり、こちらも技巧派が復権する。

 ラインの後退によって、中盤のつぶし合いから、ポゼッション側とブロック側の対峙という構図にゲームが変化した。そして、引いたブロック守備を崩すには何が有効かを明確に示したのがユーロ2008に優勝したスペインであり、同時期から黄金時代を迎えるバルセロナだった。ほぼ1つのチームであるこの2チームは、ミラン以降の戦術的な分岐点になる。

(文:西部謙司)

【了】

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