スピードスターたちがもたらした変化
ハイラインとコンパクト、壮絶なつぶし合いが続くだけの試合……しかし、その流れも少しずつ変化していった。
基調は中盤のつぶし合い、偶発的に高いラインの裏へ抜け出したときに決定機が生まれるだけ。そうした傾向に変化をもたらしたのはスピードスターたちだった。
プレッシングの始動は相手のSBがボールを保持したときである。守備側のSHがプレッシャーをかけ、MFとDFのラインが一気にボールサイドへスライドして、縦と横に陣形をコンパクトにして攻撃側のスペースを奪う。そうなると、攻撃側は狭いスペースの中でのパスワークが詰んでしまう。しかし、これを逆手にとればチャンスを作ることができる。守備側はプレスと同時にディフェンスラインを上げるので、ライン裏をつけば1本のパスでチャンスになるのだ。
中盤の密集を越すパスはオフサイドにならないようにFWへ届けなければならない。FWが中央から斜めに外へ抜け出した先、いわゆる「ニアゾーン」が1つ。もう1つのルートは逆サイドへの斜めのパス。守備側はラインアップと同時に横方向への圧縮も行うので、逆サイドは大きく空いている。
ティエリ・アンリやアンドリー・シェフチェンコは、ディフェンスラインと同じ高さで逆サイドに待機して斜めのロングパスを受け、快足を飛ばして一気にゴールへ迫るスピードスターだった。彼らはラインがカバーリング修正を行う前に、横一列になっている4人をまとめて置き去りにできた。
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