試合は「約束されたドラマの筋書き」に
それに比べれば「フランスはランスで対決するイングランド-ウェールズ」にさほど特別な意味合いはない。何よりの焦点はとりもなおさず両者それぞれの“現状短観”にある。
方や、世界最高値のついた大スター、ギャレス・ベイルを擁し、粒よりの精鋭を揃えて一時はFIFAランキングで初めて“目上”のイングランドを追い抜いた「同国史上最強チーム」、方や、90年代終盤からスリーライオンズの誇りを担ってきたシンボルたちがほぼすべて退き、フレッシュで話題横溢の新鋭が中核をなす「生まれ変わった“母国”」――。このかつてない劇的な対比にひとえに注目しないでどうしようか。
果たして、現実の試合はその“約束されたドラマの筋書き”におよそ遠からずの経緯をたどったと観て差し支えないだろう。
アンカーの位置に下がったキャプテン・ルーニーと彗星の肩書が似合うデレ・アリのクリスピーなコントロールから中盤の攻防を優位に進めるも、肝心の若きエース、ハリー・ケインに今一つ覇気も冴えもなく、押せ押せに見えて宗主国イングランドはどこか苦戦模様。それをじっくりと受け流すかのように、今や相対的経験値で格上のウェールズが虎視眈々とチャンスを窺う――。そしてやってきた、あまりにもシンボリックな一撃のシーン。
ベイルにかかれば、もはや距離も、相手キーパーのリーチも読みも関係なしか、と呆気にとられるように豪快で予定調和そのもののフリーキック先制弾。イングランドサポーターと贔屓衆はその瞬間、背筋に冷たいものを感じたのではなかったか。
はばかりながら、筆者の直感的叫びに基づいてそれを代弁するならば…「ヴァーディーを出せ、どうしたホジソン!」(実は、あのアラン・シアラーもその時同じ心の叫びを発していたという)
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