フットボールの“母国”が歩んだ歴史
かつて“母国”のフットボール界には「ホーム・インタナショナルズ」という短期集中トーナメントが存在した。英国(UK)に存在する4つの協会、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド(※)の各代表チームが総当たりでゲームを行い(つまり厳密にはリーグ戦)、優勝を争うというもので、第1回開催はイングランドで世界初の国内リーグが発足した翌シーズン中の1884年。その理由がいかにも歴史を感じさせる捻りが利いていてふるっている。それまでこの“4ヶ国”ではそれぞれ微妙に異なるルールで行われていて、その統一を明確に喧伝する意味の記念イベントだったという。
※1950年までは「アイルランド代表」。以後「北アイルランド」に変更された。
この“由緒正しき年に一度の国内対抗”(正式名:ブリティッシュ・ホーム・チャンピオンシップ)は、ちょうど100年後の1984年に一応の幕をおろしたが、別にキリをつけた訳でも何でもない。ワールドカップやヨーロッパ選手権の恒常化による過密スケジュールの問題もさることながら、折からのフーリガニズム蔓延が一つのピークに達した時代背景を象徴するかのように、この前年のイングランド-スコットランド戦で大規模なサポーター間の暴動事件が発生し、もはや治安上よろしからぬと判断されたからである。
結局、二度の世界大戦期中断、およびアイルランド紛争の影響による中止(1980-81)を除く、都合89回の戦績は、イングランド54勝、スコットランド41勝、ウェールズ12勝、北アイルランド8勝(アイルランド時代は優勝なし。数が“合わない”のは「同率優勝」による重複)。
さて、巷では今回のユーロ本大会・グループリーグで実現した「イングランド-ウェールズ」に何かと「因縁」の二文字をくっつけて語る傾向が強かったようだが、上記のホーム・インタナショナルズ史に照らし合わせれば、それがいかにあざとく軽少短絡的だったかは、おのずと察せられると思う。
それを言うなら、過ぐる20年前のユーロ96で激突した「イングランド-スコットランド」の因縁の足元にも及ぶまい。なんとなれば、この対決は今は懐かしいホーム・インタナショナルズを事実上の消滅に追いやった、文字通りにいわくつきのゲームであり、しかも舞台がよりにもよってまさに「ホーム」だったからだ。