完成度の高さがアトレティコの首を絞めた
堅守速攻に特化したアトレティコは、チームの完成度においてレアルより完璧に近かった。だからこそ、自分たちの戦い方を変えられない。自分たちがボールを保持し、引いた相手を崩さなければならなくなったとき、かなり不細工なレアルの守備ブロックを前にアトレティコは攻めあぐねてしまった。
自分たちが決してなりたくないもの、“小さなレアル”になってしまった居心地の悪さに戸惑っているようだった。カウンターアタックを戦術の基盤にしたチームの悲哀といったら言い過ぎだろうか。
レアルの守備は決して難攻不落ではなかったのだが、アトレティコはリスクを負って攻めるようには訓練されておらず、レアルのパスワークと高速カウンターを考えれば前がかりのプレッシングに徹するのも難しかった。
一方、レアルはこれまで完璧だったことがない。常に不完全なまま、進歩もせずに、王座に居座り続けてきた。最高のプレーヤーを集めている自分たちは最高であり、進歩の必要性を感じていない。
いつも攻守のバランスに問題を抱えているけれども、さしたる解決もないまま、ぶっちぎりの優勝回数を重ねてきた。不完全なことに慣れきっている。今回もふてぶてしく盾と矛の交換を申し出て、中途半端な死闘に持ち込んで生き残った。バルセロナやバイエルンなら、まず矛を手放しはしない。それをあっさりやってしまうレアルの図太さはやはり特別である。
(文:西部謙司)
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