場外乱闘で120分間ドローを引き出したレアル
“20世紀のクラブ”は、もともと攻撃過多のアンバランスなまま戦い続けていて、それは最初に欧州王者に輝いたときから変わらない。同じ攻撃のチームでもバルセロナほど緻密ではなく、攻守の循環を作れていないのだ。
CL最多11回の優勝も常に圧倒的だったのではなく、負けているはずの試合を何とか勝利に結びつけたケースは少なくなかった。今回のファイナルも延長1-1の末のPK勝ちである。
ロナウド、ベイルが普段より守備に足を使いすぎたせいか、世界一であるはずのカウンターアタックの威力すら欠く始末。しかし、それでもレアルは勝った。互いの強みで勝負するのではなく、弱みをさらけ出す戦いに持ち込み、いわば場外乱闘で120分間ドローという結果をたぐり寄せたわけだ。むしろ、完璧に出来上がったチームだったらこうはできなかったと思う。
レアルは守るようには出来ていない。ロナウド、ベンゼマ、ベイル、モドリッチ、クロースをくたくたになるまで守らせるのは得策ではなく、毎試合それができるわけもなく、そもそもそうする必要がないのだが、この一戦に限っては必要で、それができたのは監督 がジダンだったからだ。
プライドが山より高い選手たちに、プライドを捨てて気力と体力で勝てと命令できるのはおそらく彼だけだろう。敗れていればジダンのクビはつながらなかったはずだ。シーズン途中の就任というエクスキューズはあるが、このクラブを率いて無冠は許されない。追い込まれた状況だったからこそ、普段とは違う戦いもできた。
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