相手の予想を上回るアクションを起こし続ける
この本は佐藤寿人がストライカー(ゴールハンター)としてのプロ精神を詰め込み、「テクニックの活かし方」たる思考法を伝授してくれる。例えば、本の中には2015年6月20日に達成したJ1・J2通算200得点のゴール分析があり、ゴールを決めたポイントとキック種類の分布が出ている。本人に聞いたわけではないが、間違いなく佐藤寿人はこの200得点全てにおいて「ここからシュートを打った理由」と「このキックを選択した理由」を説明できるはずだ。
本の中で特に興味深かったのは、普段の試合から佐藤寿人が「相手DFやGKを上回る」ことを重点的に考えていること。サッカーは「相手ありき」のスポーツでもあり、佐藤寿人を止めるためにマークにつくDFも相手GKも彼がシュートを打つ局面では「予測」に基づいたアクションを起こしてくる。試合の中で佐藤寿人は頭をフル回転させながら、相手のアクションを上回るリアクションを考え続け、相手の予想を上回り続けているのだ。
どれだけ正確で強烈なキックを持っていても、サッカーや局面の理解に乏しく、2手、3手先を読んだ動きとプレーができなければ、相手に読まれてシュートの場面まで辿りつけないのがサッカーというスポーツの難しさであり面白さだ。だから、佐藤寿人は本の最後に「とにかくたくさんサッカーを見てほしい」という言葉も残している。ただし、「ストライカーとして学ぶならばゴールダイジェストを見ることで多くのことを学べます」という彼の言葉には全面同意できない。
あなたが選手で本当に上手くなりたいのであれば、ストライカーでもっとゴールを奪いたいのであれば、ダイジェストやテレビではなく、スタジアムから肉眼で佐藤寿人のようなオフ・ザ・ボールの動きの質が高いストライカーの90分を通した継続的な動きと駆け引きを見たほうがいい。
【了】