歴史の転換点になりかけたカラスコの同点弾
カラスコ投入で勢いを増すアトレティコに対して、ジダンの交代策は疑問が残るものとなった。フランス人指揮官は76分、カラスコへの対応に四苦八苦していたダニーロへの助け舟として、ベンゼマとの交代でルーカス・バスケスを投入してサイドの守備を強化。勝負の行方が分からない段階でベンゼマを下げるというのは賭けでもあったが、この交代には正当性も伴っていた。
けれども、その5分前に行われたクロースとイスコの交代は裏目に出る確率が高く、実際にそうなってしまった。この試合のクロースはバイエルン・ミュンヘン時代のような輝きを取り戻し、攻守両面で活躍を披露していたが、イスコは相変わらず球離れが悪く、ボールを大事な場面で失うこともあるなど、ドイツ代表MFとは完全なコントラストをなしていた。
そうして79分、右サイドを駆け上がったフアンフランの折り返しにファーサイドのカラスコが合わせ、アトレティコがついに同点に追いつく。カラスコはL・バスケス(ダニーロは中に絞っていた)に先んじてクロスに滑り込むという、ウィングというよりストライカーに近いプレーによって、ジダンが切った3枚目の交代カードを無効化した。
アトレティコのファンにとって、カラスコの同点弾は歴史の転換点となることすら感じさせただろう。1974年のチャンピオンズカップ決勝バイエルン・ミュンヘン戦でも、2年前のマドリー戦でも、試合終了間際に追いつかれ、その後に逆転されるという悲劇を経験したことで“プパス(悲運)”と呼ばれたアトレティコだが、今回の決勝では追いつく側に回ったのだから。
しかし、アトレティコに逆転を果たせる程の勢いはなかった。シメオネは同点とした後にガビ&コケをボランチ、サウール&カラスコをサイドに置く4-4-1-1にフォーメーションを変えたが、ポジションを下げたカラスコは攻撃に絡めず、最前線で縦の関係を構築したグリーズマン&F・トーレスは満足にボールを受け取れなかった。波に乗ったのはむしろマドリーで、今一度攻撃への意識を強めてアトレティコを自陣に押し込み、失点の可能性も減少させていた。