遠ざかるピッチ内の感覚。それでも治療に専念する意味
かつて中村俊輔(横浜)がイタリア・レッジーナに所属していた頃、左足キックを蹴る際、軸足の右足に負担がかかりすぎるため、キックのフォームを一から作り直そうとトライしたことがあったが、内田も同様に「歩く」「走る」といったサッカーの基本動作から見直して、体のバランスを整えるところから始めているようだ。
シャルケ移籍後の毎年のように繰り返されるCLとブンデスリーガの過密日程、そしてブラジルW杯の強行出場が、彼の肉体をここまで満身創痍の状態に追い込んだのは確かだ。
「今までW杯やCLもありましたからね。でも自分の中では休むつもりもなかったですし、こうなるっていうのはある程度、覚悟してやってきた。ヘンな話、『あの時、休んでおけば』って気持ちは全くないです。
ただ、みなさんに見てもらった通り、まだ走れていないんで。まずはちゃんと歩けるようになって、走れるようになって、痛みなしで筋力も戻さないと、また繰り返しのケガになるんで。そこはちゃんとやんないとって感じです」と本人もさらに長期戦になるという悲壮な覚悟を口にした。
内田自身は「もちろん来シーズン頭を目指しています」と話したが、筋肉をつけ直して戦える体作りをする時間が必要ということを考えると、シャルケの来季開幕前に合流できれば御の字かもしれない。
ピッチから遠ざかる時間が長くなればなるほど、本人の中では不安が増大して当然だが、とにかく完治を信じて突き進むしかない…。それが今の彼の偽らざる本音のようだ。
「サッカー選手自体、やれる年月が少ない中で、1年、2年をムダにするっていうのは、普通の社会人で考えたら、もう10年くらい何もしていないっていうくらい。もっとかな…。これを取り返すのは結構、大変ですけど、やんなきゃけないんで。
治る治らないはありますけど、ここで俺が『治らない』って言ったら終わっちゃう。『ムリだ』って言ったらホントにムリになっちゃうんで。だからしっかり復活したいと思っています」と内田は自分に言い聞かせるように語っていた。
内田不在の右サイドバックは酒井宏樹(ハノーファー)、酒井高徳(HSV)というブンデスリーガでレギュラーに定着している2人がいるものの、やはり彼の国際経験値やクオリタィの高さは日本に必要不可欠だ。
そのためには完全復活の時を待つしかない。今は焦らずじっくりと治療に専念する時だ。
(取材・文:元川悦子)
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