残酷なかたちで訪れた、激動のシーズンのフィナーレ
ベルナベウはカルデロンのように毎試合にわたって熱狂が生まれるわけではないが、ビッグゲームに臨む際には、スタンドが物理的に揺れるほどの盛り上がりを見せる。今季のチャンピオンズリーグ準々決勝セカンドレグ、ヴォルフスブルク戦では、ファーストレグの0-2敗戦から逆転することが義務づけられたが、その際のスタジアムの雰囲気はじつに凄まじかった。
多段のスタンドが重ねる声援の迫力に、私は圧倒され通しで(アトレティコ番記者として取材したダービーでは嫌味ったらしいだけだったが……)、クリスティアーノがハットトリックを達成した際には鳥肌すら立った。
あのヴォルフスブルク戦は私がマドリディスモ(マドリー主義)の根幹とされる不倒不屈の精神に初めて触れ、マドリーの代表的チャント「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)」の意味を実感せざるを得ない試合となったのだった。
一記者のハート(心臓)を赤白と純白の二つに分けた2015-16シーズンも、まもなく終わりを告げる。締めくくりの一戦は、5月28日に行われるチャンピオンズ決勝マドリー対アトレティコ。つくづく、今回の異動は残酷なものだ。
2年前の決勝ダービーでは、私はアトレティコ番記者としてリスボンに赴き、93分に1-1で追いつかれ、延長戦で3ゴールを決められた我がチームの悲運に涙を流した。それなのに今度はマドリー番記者として、決戦の地ミラノで取材を行うことになる。この引き裂かれた胸のポンプは、どこまで激しく動くことになるのだろうか。
ただ、日本メディアのフットボールチャンネルのために執筆したこの記事では、アトレティコに2年前のリベンジを果たしてほしいと、私が強く願っていることも告白してしまおう。そうなれば、この2年で100年の境を越えてしまった、世紀のマドリッドダービーの対戦成績は1勝1敗ずつとなるのだから。そう、自分の仕事に対する誇りは、過去を簡単に振り切れるほど安っぽくはない。だからこそ、禁断の移籍というものは、容易ならぬ出来事なのである。
(文:ダビド・ガルシア・メディーナ/翻訳:江間慎一郎)
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