「できそこないの修繕屋」が見せた巧みなチーム操作
この好調の間も、指揮官は「勝ち点40、残留が目標」と繰り返し続けた。さらにこの“マジックナンバー”に到達すると、「あとはすべてボーナスだ」と言った。その言葉通り、それ以上はすべてがエキストラだったのである。だから選手たちは余計なプレッシャーを感じることなくプレーし続けた。
さすがに優勝が見えてくるとラニエリ監督、そして選手たちにも硬さが見られたが、それでも首位のままゴールラインを通過して、最終的には2位に勝ち点10の大差をつけて優勝を果たしている。
結果論になるが、「できそこないの修繕屋」と揶揄され続けてきたラニエリ監督は老獪に、そして巧みにチームを操作していたのである。たまたま運も味方したのも確かだが、流れを完全に自分のものにしたのは彼の手腕があったからだ。
例えばエースにジェイミー・ヴァーディーを据えたのもその一つである。普通に考えれば、昨季2ケタ得点を挙げたチーム得点王のレオナルド・ウジョアを前線の柱に置くのだろうが、開幕からヴァーディーをCFとして起用して、その結果、11戦連続得点のプレミアリーグ新記録樹立にもつながっている。
エンゴロ・カンテもそうだ。元々は右MFでカンテを使った指揮官だったが、その位置では実力を発揮しないとみるとボランチで起用。すぐに結果を出した。その後は中盤の要として、守備の局面では敵の攻撃の芽を摘む一方、ボールを奪えばすかさず組み立ての起点となる。
特に前半戦は岡崎が「カンテくらいしかボールを出してくれる選手がいない」と話したように、前を向いて好ボールを出せる選手がいなかったチームで、精度の高いラストボールを前線に入れるか、もしくは無尽蔵の体力を生かしてファイナルサードに顔を出す。まさに攻守両面で欠かせない存在だった。
このカンテを含めて、シーズン前に獲得した選手が軒並み当たったのもレスターのリーグ制覇の要因である。昨季後半戦にレンタル移籍でチームに加入していたとはいえ、夏に完全移籍したロベルト・フートは主将のウェス・モーガンと抜群のパートナーシップを発揮、後方の壁となった。
左SBのクリスティアン・フクスも明るい性格でロッカールームを賑やかにすると同時に、ピッチでは攻守両面でハイレベルのパフォーマンスを見せた。岡崎も、得点こそ少なかったが、前線での汗かき役を買って出て、ほかのアタッカーがプレーしやすい環境を作り出してチームに貢献し続けた。