トーレス以外には塞ぐことのできない“心の穴”
トーレスを加えたアトレティコの遠征が、それを証明するものだろう。リーガ第18節、敵地カンプ・ノウでのバルセロナ戦で、トーレスは空港、ホテル、スタジアムとあらゆる場所でファンから呼び止められ、かつてのようにサインや写真撮影に応じた。
エル・ニーニョがノーと口にすることは絶対になく、リカルドは押し寄せるファンから彼を守るために、気を張りっぱなしだ。けれども、トーレスが入団発表の場で「いつの日か、なぜこのような扱いを受けるのかを説明してほしい」と問いかけた答えは、ここにこそある。
彼はいつだってファンとの距離が近く、愛情を持って接してきた。だからこそファンは、彼を自分たちの一員として扱い続けるのだ。
心に空いた穴は塞ぐことはできるのだろうか? トーレスが去った後にも、アトレティコには威厳のあるストライカーが在籍してきた。セルヒオ・アグエロ、ディエゴ・フォルラン、ラダメル・ファルカオ、ジエゴ・コスタ、そして昨夏に加入したマリオ・マンジュキッチ……。
しかし悲しむべきことではあるが、マンジュキッチ以前の選手たちに関しては、アトレティコのユニフォームを脱いだ後にも、このクラブへの愛情を持ち続けているかは定かではない。たとえ表面的に感謝の言葉を告げていても、である。
一方トーレスにとっては、どのユニフォームを着ているかなどは関係ない。彼はアトレティコのカンテラに入る前、またクラブを退団した後にも、その心臓にロヒブランコ(赤白)の血を通わせ続けているのだから。
だからこそ、エル・ニーニョがファンの心に空けた穴は、彼以外に塞ぐことはできなかった。比喩を駆使するならば、家を出た息子が帰ってきたという陳腐なもので十分であり、そこにフットボール的な利益を図る必要はないのだ。
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