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Jリーグ 9年前

ロアッソが願う熊本の復興。故郷への思い、敗戦の悔しさ、古巣・千葉からの愛情…巻誠一郎が浮かべた涙

text by 今関飛駒 photo by Dan Orlowitz , Getty Images

巻が流した涙。ロアッソが願う熊本の復興

千葉
千葉サポーターも熊本復興を願う横断幕を掲げた【写真:ダン・オロウィッツ】

 千葉退団後の巻は海外クラブ、東京Vでのプレーを経て自身の故郷であるロアッソに加入した。現在は35歳だが、彼のプレースタイルはあの頃と全く変わっていない。千葉で輝きを放ち、日本代表としてピッチを駆け回っていたあの頃だ。

 古巣との一戦では無得点に終わってしまったが、臆することなくヘディングに挑み、ボールに食らいつく献身的な姿は、あの頃と変わることはなかった。震災後はクラブを、熊本を代表して多くのメディアに出演し、その思いを全国に伝えてきた。献身的な姿勢は、ピッチの中だけではなかったのだ。

 しかし、そんな巻もコンディションが完全に整わない中でのプレーは辛いものであったという。それでも、『熊本のために』という思いが、彼を突き動かした。

「特に後半は苦しくて何度も足が止まりそうになったし、何度も諦めそうになったし、何度もゴールに向かうのを止めようかと思いましたけど、僕も含めて選手みんなか思い浮かんだのは、熊本で家がなくなったり苦しい思いをしている方々の顔や思い。それに比べたら、僕らがキツいことなんてちっちゃなことだと思いますし、そういう思いが僕らの足を最後まで動かしてもらったし、ゴールに向かわせてもらったし、ボールに最後まで執着して食らいつくことができたと思います」

 試合後、ロアッソの選手たちは熊本と九州に向けられたメッセージが書かれたバナーを持ってピッチをゆっくりと1周した。観客全員から拍手を送られ、中には涙腺が緩む選手もいた。

「みんな避難所を回ったり、物資を届けたり、炊き出しをやったり、子供たちとサッカーをやったりして、熊本の現状っていうのをみんな自分の心に刻んでいたと思うんです。その中であれだけ試合の後に相手のサポーターから声援をもらって、勇気をもらって、エールをもらって、いろんな思いがああいう形になったのかなと思います」

 巻はそう説明した。しかし、彼の目にもまた、涙が浮かべられていた。故郷への思い、敗戦への悔しさ、古巣・千葉からの愛情、久しぶりにピッチに立った喜び…。その涙は、様々な感情を表していたのかもしれない。

 ロアッソは、現時点で5試合が未消化となっている。うまかな・よかなスタジアムも、いつから再び使えるようになるかは分からない。

 多くの不安を抱えているが、巻誠一郎が、そしてロアッソがその足を止めることは決してないだろう。彼らは、故郷・熊本の復興を誰よりも強く願っているのだから。

(取材・文:今関飛駒)

【了】

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