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Jリーグ 9年前

ロアッソが願う熊本の復興。故郷への思い、敗戦の悔しさ、古巣・千葉からの愛情…巻誠一郎が浮かべた涙

text by 今関飛駒 photo by Dan Orlowitz , Getty Images

GK畑のミスで失点…巻がかけた言葉とは

畑
上益城郡出身のGK畑実【写真:Getty Images】

 この試合の2失点目は、ミスによって生まれてしまっている。GK畑実がパントキックを町田也真人に当ててしまい、それを拾われてゴールに流し込まれた。

 畑がこの試合に懸ける意気込みは強かったはずだ。彼が生まれ育ったのは熊本県の上益城郡。震災の影響が特に甚大だった地域である。巻は、下を向きそうになっていた畑に声をかけて勇気を与えた。

「畑は自分の家もなくなってずっと避難所で生活していて、特別な思いでこのゲームに挑んでいた。誰よりも精神的にも肉体的にも難しい準備の中でこのピッチに立ったのを僕ら選手は分かっていました。

 その彼が下を向くっていうのはチームが下を向くっていうのと一緒だし、『下を向くな。俺らが助けるから。前向いてやろう』という言葉をかけました。みんなそういう思いでしたし、誰も試合が終わってからも試合中も彼を責めていない。何度も彼がゴールを守ってくれたし、僕らを救ってくれた。そういうのはチームで共有できていたし、支え合いながら、助け合いながらプレーできたのではないかと思います」

 ミスはしてしまったが、この日が今季初の出場となった畑は気迫のこもったセービングでチームを助けていた。畑はロアッソのスピリットを体現した選手のひとりなのである。

「勝ち点3、勝ち点1でも熊本のみんなに届けたかった。1ゴールでも、1本でも多くのシュートを届けたかったという思いはありますし、今も無力感だったり、悔しさだったり、いろんな思いがありますけど、誰も責めることはできない。

 みんながみんな最後までゴールを目指して足を動かしていたし、戦い抜いたし、最後まで足を攣ってもどんなに苦しくても前に進み続けた。そういう意味ではまた胸を張って一度熊本に帰ってもう一度良い準備をして次に挑みたいと思います」(巻)

 少なくとも、ピッチ内で畑はひとりではなかった。ロアッソという、素晴らしいチームの一員としてプレーしていたのである。

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