敗戦を糧にさらなる高みへ
中山は頭上を通過していく大久保のクロスを、ただ見つめることしかできなかった。個々のポジショニングを含めて、それだけレイソルの守備陣が混乱をきたしていたことがわかる。
「若い選手たちが多いというのは、いいところもあれば悪いところもある。2点目を取ったら最終ラインがバタついたので、3点目の場面ではそこを上手く突けた。『いまだ』というのを、トシを取った人たちが感じて点を取った感じですね」
鬼門と化していた日立柏サッカー場であげた、2009シーズンの最終節以来となる白星を自虐的な言葉とともに喜んだ中村憲剛は、一方でレイソルの粘り強さ、立て直しの早さをこう振り返ってもいる。
「1点取ればバタつくと思ったけど、1点ではそうならなかったね」
レイソルとしては、前線から激しくプレスをかけるうえでのキーマンとなっていた武富孝介、中川寛斗の両MFを欠いたことで、チーム全体としてフロンターレにプレッシャーをかけられなかったという事情がある。
2人は体調不良でベンチにも入っていない。その点を中村は「それだけハードワークしていた、ということ。試合の映像を見たら本当にすごかったし、そのツケが回ったのかな」と慮ってもいる。
結果としてメンデス前監督のもとでも喫していない、今シーズンのワーストとなる3失点を献上した。それでも、ベテラン勢の老獪なテクニックを肌で感じられた90分間が、さらに成長するための糧となると考えれば決して下を向く必要はない。
オフにはネルシーニョ元監督が率いるヴィッセル、井原正巳元コーチのアビスパ福岡からオファーが届くなど、184cm、79kgの体に宿る才能をあらためて感じさせた中谷が胸を張る。
「次に負けないことが大事。次戦は僕が累積警告による出場停止で出られませんけど、チーム内にまた争いがあると思うし、僕はその次の試合に出られるように、練習からしっかりと取り組んでいかないといけない。シモさん(下平監督)になってリーグ戦で初めて負けましたけど、僕たちはそこまで落ち込むことなく進んでいきたい」
DF酒井宏樹(現ハノーファー)やDF鈴木大輔(現ジムナスティック・タラゴナ)が背負った「4」番を、ディフェンスリーダーの証として今シーズンから託された中谷もまた、リオデジャネイロ五輪への出場資格を有する一人だ。
GK中村航輔、MF伊東純也、山中、小林、中川、秋野、そして中山も然り。若さに導かれる勢いと連勝街道で培われた自信は、たったひとつの黒星でそがれることはない。むしろ現在位置を見つめ直す絶好の機会となり、生まれ変わったレイソルを再び加速させていくはずだ。
(取材・文:藤江直人)
【了】